FC2ブログ

    「依頼者保護給付金制度」をめぐる不透明感 

     弁護士会内から異論も出ている、弁護士による高齢者や依頼者の金銭を着服する形の横領事案について、被害者に一定額を支払うという日弁連の救済制度が、「依頼者保護給付金制度」という名称で、既に創設決定というニュアンスで報じられています。これを1面トップで報じた8月23日付け朝日新聞朝刊は、こう書いています。

     「経営に苦しむ弁護士の増加が背景にあるとみており、『市民の信頼低下を防ぐことが急務』との考えだ」

     この一文は、前記弁護士会内の異論につながる、この制度をめぐる日弁連主導層の不透明な姿勢を記者の意図はともかく、いみじくも表現したといえます。前段の背景とした「経営に苦しむ弁護士の増加」が続く以上、故意犯として発生し続ける可能性があるこの種の事案に対して、こうした後追いの救済策で、「急務」と括られる、弁護士の信頼は回復できるのかどうか――。

     この制度自体は抑止につながらないとみれば、どう考えても「急務」なのは、前段の「背景」をなんとかすること以外ありません。しかも、ゆっくりとこれから、「まだまだある」「掘り起こせる」はずという弁護士のニーズに期待しているヒマもないはずです。

     こうした制度を弁護士自治を根拠にして、つまり不祥事は当然、自治団体の自浄作用の問題となるから、その被害についても責任を負うという建て前のうえに、弁護士全体のイメージダウンにつながる共通の不利益への連帯責任を、会費からの拠出と言う形で会員に負わせる――という発想。そこに会員の当然ともいえる疑問がくすぶっています。しかも、そこまでしなければ維持できない成年後見や自治ならば返上してもかまわない、という意識にまでつながることを、日弁連主導層は前記「背景」からは読み取っていないようにとれるのです(「弁護士横領事案、『連帯責任』の受けとめ方」)。

     日弁連は、今、この制度によって何に対して責任を負おうとしているのでしょうか。自治、強制加入制度がある団体として、こうした弁護士を生み出した、あるいは放置した責任でしょうか。個々の会員の故意犯まで責任を負うということの裏返しとして、こうした弁護士を存在させないことへ責任をどう負いきれるという話なのでしょうか。不祥事に対して、弁護士会は何かをしなければならないというのは理解できても、どうも日弁連・弁護士会の不祥事対策には「自治の建て前上何かしなければならないからやった」という、その先に妙案があるわけでもないととれてしまうような、不透明なものを感じてしまいます(「弁護士不祥事をめぐる自浄能力と自覚」)。

     前記「背景」を生み出し、そしてこうした弁護士をつくり出してしまったことは、まさに「改革」の失敗を意味するととれば、その「改革」の旗を振った人間としての結果責任を負わなければならないはずです。そうだとすれば、現実にこうした弁護士を少しでも生み出さないために、その「背景」にメスをいれることこそが、これから被害にあうことが予想される依頼者の安全を考えれば、根本的かつ「急務」な対策といえないのでしょうか。

     それとも、日弁連はこれからも起こる一部弁護士が故意に引き起こした不祥事に対して、多くのまっとうに業務に向っている弁護士までが連帯して責任を負っている、というところに社会の称賛を期待しているということでしょうか。こうした案件そのものへの対策としても、有効ととれる対策を提案している弁護士もいます(弁護士法人岩田法律事務所コラム)。

     マスコミへのリークも含めて、日弁連主導層には、この制度導入に対して、強い意欲があるということも伝えられています。しかし、まるで会員の状況や声、さらには逆に自治の内なる危機までが、目や耳に入っていないかのように押し進められようとしている、この制度をめぐる不透明感には、彼らが前提として目をつぶっている「改革」路線の不都合な真実があるように思えてなりません。


    弁護士自治・弁護士会の強制加入制度の必要性についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4794

    司法改革に疑問を持っている人々ための無料メールマガジン「どうなの司法改革通信」配信中!無料読者登録よろしくお願いします。http://www.mag2.com/m/0001296634.html

    にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
    にほんブログ村

    にほんブログ村 その他生活ブログへ
    にほんブログ村



    人気ブログランキングへ

    テーマ : 弁護士の仕事
    ジャンル : 就職・お仕事

       スポンサーリンク



    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

    最新記事
    最新コメント
    最新トラックバック
    月別アーカイブ
    カテゴリ
    検索フォーム
    RSSリンクの表示
    リンク
    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる

    QRコード
    QR