弁護士会が気にすべき本当の現実

     今年4月に発表された日弁連の会務執行方針の「基本姿勢」のなかで、任期後半に臨む村越進会長が一番に強調していたのは、「市民の理解と信頼」でした。

     「日弁連のすべての活動そして弁護士自治は、幅広い市民の理解と信頼に支えられていることを、常に肝に銘じなければなりません。日弁連は、井戸やコップの中のような議論に基づく自分たちだけの『正義』を、声高に主張すればそれで良いというものではありません。すべての判断基準は、市民の利益に叶いその理解と信頼を得ることができるか否かにあります」

     その後に続く「改革」の実現に言及した下りでも、社会の中で少数意見にとどまることの方が多い日弁連の主張を最大限に実現するためには、孤立を回避することが不可欠であり、独りよがりや原理主義と批判されるような言動は排さなければならない、としています。

     日弁連の主張は、社会の少数派のために時に少数意見になることもあるが、孤立化を恐れずに立ち向かおう、というのでなく、独りよがりや原理主義ととられることはやめなければ、「市民の理解と信頼」は得られず、自治も脅かすという方に重きを置き、会員に語りかけています。

     まさに14年前の弁護士自治を「市民の理解と支持」のもとに維持させようとした日弁連決議からの弁護士自治観といえるもので、これ自体、別に目新しいものではないという人もいると思います(「『多数派市民』と自治をめぐる弁護士会のスタンス」)。ただ、今、日弁連の自治を脅かしているのは、果たしてこの日弁連の少数意見の「正義」なのか。そのことをこの一年の弁護士界を振り返っても思ってしまうのです。

     今、弁護士の自治を脅かしているものとして真っ先に日弁連が自覚しなければならないのは、端的にいえば、自治の自浄作用が疑われる不祥事と、会員の離反ではないかと思います。外に向ける姿勢に関して語られた会長の「市民の理解と信頼」の訴えかけが、前者不祥事への会員の自覚を促す趣旨ならば理解できますが、残念ながらそうとは読めません。そこではなく、むしろ「人権」などに立脚した日弁連的正義が社会的に通用しない局面を想定した言葉にとれます。今、日弁連が「市民の理解と信頼」を気にするとしても、果たしてそこなのでしょうか。

     逆に、むしろ現在の日弁連の姿勢が、後者の弁護士自治を揺るがす会員の離反を招きつつあるとみるべきではないでしょうか。それは、一言で言えば、日弁連の「改革」への姿勢ということになります。会員の経済環境を直撃している「改革」に対して、その路線に対しても、会員の負担減に対しても無力な執行姿勢から会員の気持ちが離れ、高額な会費で支える自治そのものを規制ととらえ、そこから離脱したい要求を高めているのが現実ではないでしょうか。そして、さらにその先には、少数派の擁護者としての弁護士という存在は、果たして確保されるのかという問題も横たわっているはずです。

     日弁連の執行姿勢が、「市民の理解と信頼」の上に突き進んでいるのであれば、そのこと自体が「会員の理解と信頼」を蝕みつある。それは、逆にそうした会員の眼には、日弁連もいまだ支持している、この「改革」の先に、彼らがいう「市民の理解と信頼」を勝ち得た弁護士の姿を描けなくなっているからにほかなりません。自治を言うならば、日弁連執行部は、今、もっと「会員の理解と信頼」に目を向けなければならないはずなのです。

     「下を向いてうなだれるのではなく、誰かのせいにして嘆いたり批判ばかりするのではなく、力を合わせて、私たちの手で司法と弁護士の未来を切り拓きましょう」

     こう会員に発破をかけてしめくくる、この基本姿勢からは、やはり残念ながらその自覚や緊張感を読みとれません。

     来年の日弁連会長選では、再びいわゆる「改革」路線派と、反対派の候補が激突することも予想されています。この行方に関心を持つ会員のなかでは、「改革」の負の影響が直撃し、会内で「数」の勢力として膨れ上がった60期代の若手の投票行動に注目が集まっています。

     その一方で今月、兵庫県弁護士会で行われた、近弁連理事会に推薦する次期日弁連副会長候補を決める選挙で、反「改革」路線派で知られる武本夕香子弁護士(同会前会長)が大差で敗れるという事態が起きました(武本夕香子弁護士のブログ)。同会で現状路線維持派がそんなに多いのか、という驚きの声も弁護士界内では聞かれました。

     そんななかで聞こえてくるのは、「改革」にも弁護士会活動にも冷めている若手の反応です。これまで「改革」の議論の経緯はもちろんよく知らず、ただ、どちらにしても変わらないだろうこの状況に対して、あえて現行路線にも反対はしないという受けとめ方があるのではいか、と分析する弁護士もいます。

     まさに「改革」が行き詰っているだけではなく、状況が好転する材料がないまま突き進んでいる現状を反映したものといえます。史上最低の投票率となった前回日弁連会長選挙と同様、無力感の広がりが、どう次期選挙に影響するのかということを懸念する声もあります(「日弁連会長選、史上最低投票率の現実」)。これもまた、弁護士自治の内部的危機の象徴のはずです。

     こうした状況を踏まえて、次期日弁連会長候補者が何を、どんな言葉で訴えかけ、どういう現状認識のもとに、弁護士とこの「改革」の未来を導くつもりなのか――そのことに、注目したいと思います。

     今年も、「弁護士観察日記」をお読み頂きましてありがとうございました。いつもながら皆様から頂戴する貴重なコメントは、大変参考になり、刺激になり、そして助けられました。この場を借りて御礼申し上げます。来年も引き続き、よろしくお願い致します。
     皆様、よいお年をお迎え下さい。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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