法科大学院「志望」をめぐる認識のズレ

     いくら旧司法試験に比べて、合格者が増えて、倍率の上では受かりやすくなっても、志望者にとってのチャレンジのためのハードルは確実に高くなっているのが、法科大学院制度を中核とする新法曹養成の現実です。そもそも旧試体制に比べて新制度は、プロセス強制化(受験要件化)によって、志望者にとっての経済的時間的負担が増すということが、はじめから分かっていたといえるものですが、そのことと併せて言われるのは「後戻り」の問題です。

     旧司法試験体制でも、多数回受験者については、これまでの経済的時間的「投資」から、チャレンジ・失敗のスパイラルから抜け出せなく話はよく聞かれましたが、法科大学院進学という決断によって、早々に先行投資してしまう制度では、合格に向って進むことを余儀なくされ、その期限も限られている。断念のときは、早く訪れるかもしれないけど、「後戻り」をする時は、確実にまとまったおカネを失っている――。

     およそ新制度は、第三者が「チャレンジしてみては」などということを、軽々に口にでる代物ではないことは初めから明らかです。「業界そのものも、資格へのチャレンジも、志望者にお薦めはできない。現役として情けない世界になってしまった」といった、かつては聞かれなかったようなため息混じりの声が、いまや業界から聞こえてきたりするのです。

     「法科大学院に行くべきか、いなか」というタイトルで、「大阪・淀屋橋の弁護士ブログ」が、進学を検討している人向けの記事を最近、アップしました。結論からいえば、タイトルの問いかけへの答えは「否」で、その理由は「司法試験に合格したとしても、確実に、人生の歩が、普通の人より5年は遅れる」というものでした。ブログ氏が志望者に提示している未来予想図は次のようなものです。

      「あなたがロースクールでしこしこと勉強している最中、あなたの大学の同期は大企業に入り、社会人として、どんどん先に進んで行く。大学の同期との飲み会にいけば、同期の仕事での活躍ぶりを聞かされる一方、あなたは、取り残されたような気がして、次第に大学の同期とも疎遠になって行く」
      「あなたが週末も平日も変わらず勉強している中、大学の同期は、合コンやゴルフに行ったりする。あなたが無給で、親からの仕送りや、奨学金で暮らしているなか、大学の同期は、ボーナスをもらい、海外旅行に行ったりする。友達は、どんどん結婚していく」
      「しかし、あなたは、ロースクール時代は、当然そんな余裕などなく、合格後も、借金によって、結婚を決意できないでいる。実務に出て2、3年立ち、ようやく、仕事が形になってきたころには、30歳を越えるが、友達は、社会人10年目である」
      「ストレートで合格しても、社会人になるのに、通常より4年は多くかかってしまう。我々は、弁護士になるのに貴重な20代の4年間を対価として支払う」

     こう言うとらえ方そのものには、当然、異論もあると思います。彼は、この未来予想図に見合う「価値」が、そもそも現在の法曹という職業にはないという前提に立っているので、単純にそこのとらえ方が違えば結論は違うことになります。同期がどうなっていく、こうなっていくなど、比べ出したらば、チャレンジできないのは、新旧制度とも同じという人もいると思います。ただ、弁護士の経済環境の変化は、社会人になる遅れを、その後に取り戻せるかどうかの問題につながって、その点でも「価値」を見出し得るかにもかかわってくる、といえます。

     ただ、別のこともいえるように思います。それは、つまり進学検討者へのサジェスションという体で書かれている、この未来予想図は、これに前記合格できなかった借金を抱えた「後戻り」というストーリーも含め、既に先刻ご承知の多くの志望者たちが念頭にある、りっぱなこの世界への敬遠理由のなかで描いている世界ではないか、ということです。

     それに対して、実は新制度擁護派が用意できる言葉は、それほどないように思えます。そうした人材は最初から想定外、「そもそもこないでよろしい」という基本的な姿勢が予想されますし、どこか「志」として低いという風な扱いがされてしまうかもしれません。ただ一つ、根本的なとらえ方の間違いをそこに見つけることができます。それは、どうもこうした強気ともいえる、「それでも目指す奴はいる」と聞こえる発想の方々は、ライバルが外にあるということへの認識が希薄であるということです。彼ら志望者が比べるのは、他業種の条件であり、彼らがそこを水平に比べられる立場であるという、当たり前すぎる話です。

     経済的な条件も含めて、「まだまだできる」とか「やれるはず」というのは、他業種全般と比較してどうかが問われます。場合によっては、他業種との生涯賃金での比較ということにもなるはずです。この世界の制度擁護派の見方は、この世界まっしぐらの人材が念頭にあるようにとれることがしばしばありますが、優秀な人材をその枠に納めて考えられるのでしょうか。少なくとも、そこが広くとられていた状況に比べて、どちらがより優秀な人材獲得につながるでしょうか。

     若者の気持ちに無理解というよりも、なにやら都合のいい精神論をそこにみます。今年2月にまとめた日本組織内弁護士協会が行った企業内弁護士アンケートの結果で、今の勤務先を選んだ理由として回答が最も多く、半数以上が選んだのは「ワークライフバランスを確保したかったから」で、その比率が年々増えていることも明らかになりました。この結果には、やはり溜息をついてしまう企業法務関係者もいるようですが(「企業法務戦士の雑感」、これにしても若手気質への理解度というより、選択される側として自覚と現実(条件確保のメリット、デメリット、そして弁護士全体の経済状況)をどこまで理解しているのかが、まず問われることのように思います。

     少なくとも新法曹養成全体を考える時、理屈や精神論は別にして、結果的に人材確保の面で、新旧どちらがよい状態であるのか。まず、そこに辿りつけるのか、そこから逆算できるのかという問題が横たわっているように思えます。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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