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    「預かり金流用」という弁護士の現実

     依頼者から預かったお金に弁護士が手をつけるパターンの不祥事は、弁護士に対する社会的信頼という意味では、決定的なダメージになるものといっていいと思います。昨今、ベテラン弁護士によるこうしたケースが、報道される度に、「改革」の増員政策が、弁護士の経済苦境が引き金になっていることも社会に伝えられています。

      かつてこうしたケースが存在しなかったかといえば、そうではありませんが、それは投資に手を出して失敗したといった、どちらかといえば、特殊な事情を抱えた弁護士によるものだったという印象があります。しかし、現在のそれは、明らかにそれとは異なり、弁護士全体の経済的な落ち込みが、事務所経営を圧迫し、その一部において「流用」という事態を生んでいる、ととれます。

     結論から言えば、この不祥事について、そうした弁護士の現状が有効な弁明になることはほとんどないし、また、そのことは当の弁護士が一番分かっていることだと思います。正義を使命に掲げる弁護士が、いかに経済的に苦しくとも、こともあろうに依頼者の金銭に手をつけるということがあっていいわけがない。「貧すれば鈍する」そのままの状況は、とりもなおさず弁護士の正義や倫理感のレベルそのものを示します。社会は、こんな状況にならなければ道を誤らなかっただろう弁護士たちに対して、それに耐えられなかった程度の倫理感と正義感のレベルを被せてみるでしょう。そして、それは弁護士という存在全体に対する「警戒」情報として受けとめられることになります。

     ベテラン層がそうしたことに手を染めるのは、まさに事務所経営を抱えているという事情を反映した結果ではありながら、逆にベテランにしてそうした行為に及んでしまうところが、経験に裏打ちされていない、社会からすれば保証なき弁護士の質という問題として扱われることになるのです。

     あくまでこれらを踏まえたうえで、あえて弁護士は、なぜ、今そうした悪の誘惑に打ち勝てないのか、あるいはそうした同僚・先輩を同じ経営弁護士はどうみているのかについて、この間、いろいろな弁護士の声を聞いてきました。この全体的なトーンとして気が付いたことは大きく二つあります。一つは、こうした事態を、ベテラン弁護士の倫理が低下したとか、質の低さが露呈したという受けとめ方よりも、自戒的に受けとめている意見が多いこと。端的に言えば、同じような事情を抱えるかもしれない自分たちも、こうした状況に陥らないように注意しなければならない、という受けとめ方です。 

     このなかで共通して聞かれるのは、「一時流用」という行為者の意図に関する推察です。おそらく彼らは、困ったときに一時的に借りて、すぐ返すつもり(返せるつもり)だったのではないか、と。しかも、なぜ、そういう発想に陥ったかといえば、かつてそれを可能にしていた経済状況があったから。その一種の成功体験ともいえるようなものが、そうした行為に対する抵抗感のハードルを下げたのではないか、という見方です。

     奇しくも、弁護士の懲戒処分が2014年に過去最高の101件になったこととともに、この預かり金流用の不祥事が目立っていることを伝えた2月21日付け朝日新聞朝刊に、日弁連で不祥事対策を担当しているとしてコメントを寄せている高中正彦弁護士も、全く同様の考えが一部の弁護士にあったことについて言及しています。

     もともとそうしたことが許されていいのか、という話には当然なるとは思います。具体例として報告されているケースの額を見ても、それが現状、果たして「返せる額」との認識のもとでなされたのか、疑問に感じるものもあります。ただ、誰もがそうした行為をしていたかどうかはともかく、経済的な成功体験が勘違いのもとであり、それが通用しない現実があるという認識(もしくは認識不足への反省)が、前記自戒の根底にあるように思えました。

     そして、もう一つは気づかされたのは、こうした問題が露呈する度に弁護士会から掲げられる防止策の効果に対して、多くの弁護士のなかには懐疑的な見方があることです。経済的な弁護士の状況が改善しない限り、こうした問題は後を絶たない。しかし、日弁連・弁護士会主導層から苦し紛れのように必要といわれる防止策は、その根本にかかわるものではない、と。

     日弁連が2013年に弁護士の横領不祥事対策として作成・施行した預かり金口座開設などを義務付ける「規程」に対しても、口座の払い戻し権限が結局弁護士にあるといった致命的問題とともに、こうした不祥事の動機づけとなってしまう環境そのものの解消の必要性がいわれました。前記朝日の報道でも、こうした「流用」に対して各弁護士会が防止策に急ぎ乗り出しているとし、高中弁護士も結論として前記成功体験につなげて意識改革の必要性に言及しています。しかし、そこに具体的な効果を、どれほどの人間が期待しているのかは疑問です。それでもやらない意識や倫理の醸成が、言葉でいうほど簡単でなく、額面通りにいかないことを多くの人間は察しているように見えます。

     つまり、弁護士の経済状況の健全化が図られない以上、意識や倫理の醸成でどこまで依頼者市民に実害を及ぼさないところまでに持っていけるのか――。その現実的で根本的疑問はえんえんと解消されていないのです。

      「改革」の発想からすれば、こうした「心得違い」の弁護士はやがて淘汰される。そして、その淘汰を生むためにも、また、その過程の自己防衛のためにも、依頼者市民は、そうした不祥事の動機づけとなる彼らの経済的状況を含め、やらかさない弁護士を見抜かなければならない――。弁護士のレベル批判になることは、前記したように当然のことですが、その一方で私たちは自己防衛のために、まず、この見方に現実的に立てるかどうかを踏まえたうえで、今、起きていることに向き合う必要があります。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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