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    法律事務所「二極化」の現実と価値

     「法律事務所の二極化」ということが、今回の「改革」をめぐり、散々言われてきました。ただ、よく耳を傾ければ、その意味するところは、人によって違います。よくいわれるのは、事務所形態についてで、これまで日本の個人事務所主流の形から、共同化、ローファーム化が進むというもので、「改革」によって、その二つの形態にはっきりと分かれてくるという見方です。

     それと同時に、よく言われるのは、むしろ経営する弁護士の姿勢にかかわるもので、大まかにいえば、「改革」によってよりビジネス化を意識する弁護士と、そうでない旧態依然とした弁護士に分かれるという見方。さらに、これに被せて、いわゆる「勝ち組」「負け組」という分け方に類する、要は儲けているところ、儲けられるところと、そうでないところというニュアンスもあります。

     この場合の多くは、弁護士増員政策やそれに伴う競争・淘汰という「改革」のあり方に対して、肯定的積極的に受けとめようとする論調のなかでいわれてきたという特徴があります。そこには新しい「改革」の流れのなかで、それに乗れない者と乗れる者、いわば時代遅れとそうでないものといった、弁護士の保守的姿勢あるいは「心得違い」を批判的にとらえる響きを伴ったりします。

     もっとも、一方に対して必ずしも批判的な意味を持たない前者の使い方にしても、社会の多様なニーズにこたえていくという、建て前からすれば、それぞれの役割を果たすはずの二極化は、「改革」論調のなかで肯定的に描き出されます。一方が主に個人や中小企業ニーズにこたえ、もう一方が主に大企業のニーズにこたえるといったイメージ化もできます。

     だとすれば、この二つの二極化というとらえ方には、むしろ「改革」の建て前として、ひとつ決定的な違いがあるはず、といわなければなりません。いうまでもないことかもしれませんが、前者の二極化は、その両者をきっちりと成り立たせなければならないはずのものであるのに対して、後者は一方が消えていくことが、むしろ「改革」の効果として、望ましいことになるということです。
     
     2014年3月末までの5年間で、日本の弁護士の数は約8000人増え、30545人なりました。「弁護士白書」2014年版によると、その間、最も増えた事務所形態は、「1人事務所」で951(事務所)増、次いで「2人」793、「3~5人」719各増。所属弁護士数でみると、「3~5人事務所」が2594人増と最も増え、以下、「2人」1586人、「1人」951人、「6~10人」936人、「11人~20人」875人各増と続き、その後に事務所数では2件しか増えていない「101人以上」の大事務所が、474人増えています。

     一方、2014年3月末現在、全事務所数(14791事務所)との割合でみると、やはり「1人」が最多で59.31%、「2人事務所」18.21%と、両者で全体のほぼ8割。以下、「3~5人」16.06%、「6~10人」4.41%、「11~20人」1.43%、「20~30人」0.32%、「31~50人」0.14%、「101人以上」0.06%、「51人から100人」0.05%。全弁護士に占める所属弁護士数の割合でも、「1人事務所」が25.03%と最も多く、「3~5人」が24.52%、「2人事務所」15.37%、「6~10人」13.53%、「11人~20人」8.15%で、全国に9事務所しかない「101人以上」が6.23%と続いています。

     ところが、これを推移でみると、この5年間に大きな変化があったわけではありません。はっきりしているのは、全事務所件数との割合では、「1人事務所」はこの間徐々に下降し、5年前に比べて5.33ポイント減と最も下げ幅が大きいこと。逆に「2人事務所」が2.50ポイント、「3~5人」が2.37ポイント各増のほかは、それより多人数の事務所形態でいずれも横ばい、もしくは頭打ちという状態であり、これは所属弁護士数で見てもほぼ同様の傾向にあります。

     これらのデータからいくつかのことが推察できます。日本の法律事務所形態は、依然、2人以下の小規模が主流であるものの、そのなかで「1人事務所」よりも2人から5人規模の経営形態が、現在のところ多くの弁護士に選択されつつあること。それ以上の規模の事務所については、事務所数としては増えつつあっても、その勢いは鈍いこと。それは、同時に増員弁護士の受け入れ先としてみたときに、31人以上の規模の事務所よりも、現実的に前記「3~5人」を中心とした小規模事務所がより「貢献」しているという現実があること――。

     所属弁護士の弁護士経験年数に関するデータがないので、これもあくまで推測になりますが、以前も書きましたように、既に事務所在籍3~7年での独立という従来のモデルが崩れていることがいわれるなか、これらの規模が選択されている動機付けも変わってきているととれます。「1人事務所」のなかには、かつてのように長く共同事務所に所属した高齢のベテランが、自宅開業などに移行するケースもあるかもしれませんが、当然、事務所勤務経験のない「即独」組もいます。それと同時に、選択されつつある5人以下の規模の共同事務所にしても、従来型の経験のある弁護士の独立ではなく、主に「即独」のための経費シェアとしての妙味から選択されてきている可能性も考えられます。

     一番の問題は、これら「二極化」と一括りにされてきたことのなかで現実に起こっていることが、一体、誰にとって望ましいことなのか、ということです。それは言い換えれば、こうしたことが、たとえ弁護士の生存にとって望ましいことであっても、利用者にとってのあるべき弁護士に望ましいのか、という疑問です。少なくとも、前記動機付けから推測する限り、そこには「望ましい」というよりも、「仕方なく」という、いわば追いつめられた結果が沢山含まれているととることができてしまいます。

     弁護士1人、事務員なしの事務所を想定して、どこまで経費を削れるのかをシミュレーションした「弁護士有資格者」のブログ(「法廷日記」)がありました。非常に現実的であり、参考にできる試算として関係者には受けとめられるかもしれませんが、その一方で、果たしてここまで経済的に追い詰められる形が、本当に利用者にとって有り難いことなのかが、不安になってきます。

     冒頭後者の「二極化」をいう立場からすれば、そもそもそういうことは問題にならないと思います。およそ誰でもやっている生存のための当然の「努力」ということで片付けられそうです。しかし、前者の意味において、現状はどうみるべきでしょうか。どちらかといえば、増員政策の「受け皿」としての「貢献」が低い側の目的やニーズが強調される一方で、あくまで現実的に主流である事務所形態の弁護士のあり方あるいは未来は、どこまで想定されているのか。結局、後者の論調の前に、それもかすんでいるのではないかーー。

     「二極化」と括られる現実の意味と価値について、もう一度、考え直す必要があるように思えてなりません。


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    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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