弁護士「高圧的」イメージをめぐる変化

     かつて弁護士に対する市民の苦情、あるいは関係決裂の原因として、しばしば市民の口から「馬鹿にされた」という言葉を聞くことがありました。もちろん、弁護士側には、馬鹿にする意図など毛頭ない、という弁明をしたくなるケースもあるとは思います。

     ただ、以前も書いたことがありますが、耳をすませて市民の言い分を聞けば、「馬鹿にされた」という話の多くは、「素人扱いされた」というものです。多くの市民は、法律に関しては少なくとも弁護士よりは「素人」と考えるのは一般的ですから、それも当然といえば当然なのですが、要は、その時の弁護士の態度。言葉に出さなくても、知識に対して、「そんなことも知らないのか」とか、依頼者の要望に対して、あきれ顔で「そんなことはできない」と言われた(ような気持ちになった)というのが、圧倒的に多かった、という印象があります(「弁護士に関する苦情(3)『素人扱いされた』」)。

     「高圧的」という言葉は、よく弁護士に使われてきました(「『高圧的』弁護士イメージの現実」)。弁護士にもさまざまな人がいます。かつてから依頼者が「素人」であるがゆえに、逆に気配りを欠かさない弁護士もいたことも知っているだけに、その点では弁護士=高圧的イメージとされることは、少々気の毒には思いますが、ただ、現実的にそうした弁護士が存在してきたことは、私の経験からも事実です。

     どの社会にもいる、と括ってしまえば、弁護士という職業の「特徴」のようにいうこともおかしな感じがしますが、その一方で、弁護士自身が自覚してきた「敷居が高い」という市民の受けとめ方の一つの要素として、こうした姿勢があったことは否定しきれない、と思いますし、それもまた自覚している同業者がいます。難関試験を経たある種のエリート意識、サービス業的な自覚のなさということを、「高圧的」の背景に当てはめることもできなくありません。

     かつて「雇う」という言葉を弁護士に使っただけで、「弁護士を雇うとは何事だ」と激怒したベテラン弁護士がいました。弁護士会内では、数々の役職を歴任し、「良識派」という評価もされていた人物ですら、こういう感覚だったのか、と今にして思います。

     ただ、この点に関しては、弁護士のタイプが大きく変わってきたのも事実です。依頼者・市民に対する口のきき方や態度に、当たり前の配慮をする弁護士は増え、同業者から見ても、前記したような弁護士は「旧タイプ」とくくられるようになっています。時々、ある種の皮肉として、「これは司法改革の唯一の功績ではないか」という人もいます。これまでも書いてきたように、「改革」が弁護士に一サービス業の自覚を求めた先には、必ずしも依頼者・市民にとって、望ましいことが待っているとは言い切れない現実がありますが、少なからずその自覚が、弁護士の依頼者に対する「配慮」の意識に変化をもたらしたと考えれば、前記言い方もまた正しいことになります。

     その一方で、弁護士の「高圧的」イメージには、依然強固なものがあります。それだけに、若手を含めて、多くの弁護士は、そうしたものを形づくることに貢献してきた「旧タイプ」の弁護士の淘汰は、いまや本音の部分では歓迎している、といっていいと思います。ただ、少々気になるのは、最近、これも弁護士から聞こえてくる、依頼者・相談者市民の方の変化です。

     それは、一言でいえば、サービスの有償性を度外視し、さまざまなことを弁護士に持ち込む傾向。そこには、弁護士に筋違いの要求をするものも増え、無理な要求のレベルもまた上がっているという指摘があります。「相談者の質」という問題を言う弁護士は、以前よりも増えているのです。有償性が伝わらないまま、「気楽に」「小さいことでも」の弁護士活用のアピールが、そうした弁護士にとって歓迎できない「多様化」をもたらしている、という見方もあります。「敷居が低くなったことの副作用」という受けとめ方や、その意味では、弁護士会は、もっと弁護士が扱うサービスの有償性の方を、社会にアピールすべき、ということも言われ出しています。

     当然、この傾向は、弁護士に対する「不満」の裾野を広げる方向であり、それはまた、そうした無理な要求に対して現実的対応をとる弁護士の姿勢を、「高圧的」という旧タイプイメージに置き換える危険性を生み出します。

     依頼者に対する姿勢には、弁護士側の意識と能力が現実的に深くかかわり、今後も自覚が求められ続けることはいうまでもありません。ただ、一方で、旧タイプの淘汰という形だけでは、弁護士の負のイメージが払拭されない、それこそ「身近」「親しみやすさ」「本当は敷居が低い」アピールだけでは、解決しない新たな状況も生まれているように見えるのです。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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