弁護士「紹介業」という領域

     企業経営者やビジネスマンとの話の中で出る、弁護士にかかわるビジネスアイデアには、弁護士法に抵触する恐れがある、いわば同法を当然のように飛び越えるものが登場することが、これまでもしばしばありました。その典型は、いうまでもなく、同法27条の周旋・名義貸し禁止と、72条の非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止にかかわるもので、そのなかでも最も多いのは、結果として、弁護士に依頼者・市民を紹介して一定の報酬を得ることになる、いわやる「紹介業」に当たるものという印象があります。彼らからすれば、ビジネスチャンスとしてイメージしやすく、弁護士法からすれば、陥りやすいところということになります。

     以前にも書きましたが、これまでもこういう場面になるとも、一応、クギを刺すような立場にもなるわけですが(「横浜弁護士会『顧問弁護士紹介制』白紙撤回の現実」)、その度に弁護士法の禁止規定、というよりも、弁護士についてこういうビジネスがアウトであるということが、いかに一般に周知されていないのかを感じます。と同時に、もう一つ感じるのは、こうしたことを禁止すること、あるいは弁護士という存在がそうした形で「使えない」ことが、ビジネスの発想からすれば、いかにイメージしにくいことなのかということです。

     日弁連や弁護士会が、こうしたことを禁止している事実やその問題性を、発信してこなかったわけでは、もちろんありません。しかし、日弁連のホームページでの説明(隣接士業・非弁活動・非弁提携対策)もそうですが、それらはやや紋切り型である印象があります。例えば、弁護士ではない「事件屋」が介入すると、法律秩序が乱され、国民の権利や利益が損なわれるとか、弁護士が金銭をはさんで従属的な関係で事件を紹介されるような形になると、結局、弁護士の独立を犯して、ひいては国民が犠牲になる、といったものです。

     この発想の根底にあるのは、厳格な資格要件と職務に関する諸規定に服すことになっている弁護士こそ、国民にとって「信頼」に足る存在であるというものといえます。この仕事の対象になる権利・利益の重要度からすれば、それらにかかわる仕事は、あくまで弁護士の主導的監視下に置かれるべきであり、弁護士以外の者の関与そのものが原則危険であるという見方といってもいいと思います。

     何が非弁行為に当たるのかについての、弁護士会の基本的な判断要素も、金銭の流れをどれだけ弁護士が把握しているか、弁護士による方針決定か、方針決定の結果に不当性がないか、とされていますが(東京弁護士会機関誌「リブラ」2006年5月号、「特集 弁護士に対する苦情と非弁提携」)、要は弁護士の関与度です。 ただ、こうした説明は、おそらく弁護士が考える以上に、一般には伝わりにくいものがあるように感じます。要は、いかなる工夫をもってしても、常にダメといわなければならないことなのか、ということが理解されにくいということです。

     弁護士と依頼者・市民を一定の報酬の下に結び付ける行為が、すべて「事件屋」介入と烙印をおされてしまうような、法律秩序を乱すものになるのか、介入者が、すべて社会正義を踏まえない、節度なき存在とも思えない。弁護士という存在が本当に資格要件や規定が担保された「信頼」すべき存在であるならば、彼ら主導でこうしたビジネスが成立する余地があってもいいし、ましてそんな彼らがしっかりしてさえいれば、従属的であったり、道を踏み外すことはないではないか。それとも、これはむしろ、弁護士が悪の誘惑に負けてしまわないための、禁止規定なのか――と。

     これは、さらに現在、弁護士が「改革」によって置かれている状況、経済的な困窮やビジネス化の傾向を加味して考えると、もっと訳が分からなくなる、というべきです。いうまでもないことかもしれませんが、弁護士の業務拡大につながるような弁護士紹介業や、非弁護士が一定限度代行する業務を、それこそあくまで弁護士会の監督下で認める(業者の認可制度など)が、なぜ考えられないのか、ということです。

     それは、正直、私にも分からないところです。前記弁護士法の規定をめぐっては、確かに前記したようなリスクや隣接士業との関係(もっとも、これも弁護士側の主張としては利用者のリスク論)はいわれてきましたが、それらが前記したような弁護士会監督下での工夫の余地を、すべて排除するほどのものなのかどうか、ということです。しかも、これほど弁護士会が弁護士業務の拡大を叫んでいる時に、という前置きもつけたくもなります。むしろ、別の何かがそうした検討を阻んでいるならば、それは一体何なのかという気持ちにもなります。

     もっとも、前記したようなリスクを踏まえたうえで、直ちにこうした検討を始めるべきだ、ということには、正直躊躇があります。考えてみれば、これもまた、弁護士と弁護士会が、今、現実的に「信頼」できる状態か、「資格」や「規定」が質を保証しているのかどうかにかかっているからです。もし、当初の趣旨や建て前はともかく、本当は、等身大の弁護士の姿も踏まえたうえで、こうしたところに手を出さない方が利用者にとって、安全という趣旨であるのならば、または、もはや現実がそうなっているというのであるならば、いかに冒頭の人たちをがっかりさせることになっても、やはり今後もクギを刺さざるを得ないように思えるのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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