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    宮城県富谷町の「困惑」

     宮城県富谷町が4月に採用した法曹有資格者職員をめぐる問題が、弁護士界のなかで話題になっています。地元メディアが伝えていますが、町が任期3年の期限付きで採用した司法修習修了者について、仙台弁護士会が「弁護士会への登録のない者が業務を行うと非弁行為に当たる」と指摘。弁護士登録をせずに、町民の法律相談などの職務を担ってもらうことを想定していた町は、新たな対応に迫られ、登録費用分を職員給料に上乗せする条例改正案を、今月13日の町議会に諮ったが、反対多数で否決されてしまった、という状況です(9月14日付け河北新報)。

     採用に際し、町側は「弁護士会への登録をしないのが条件だった」と報じられていますが、採用方針が発表されたときに町に取材したところによれば、既に書きましたように、「条件」というよりは、会費負担をしない、訴訟代理人を選任しない、という町の方針からすれば、むしろ登録しないのは当然の希望という認識でした。会費自己負担という選択になれば、それだけ採用職員の就労条件を悪くするだけという、受けとめ方もしていました(「弁護士登録不要というニーズ」)。

     実は、弁護士会のなかで今、話題になっているのは、富谷町の対応ではなく、むしろ仙台弁護士会の対応です。つまり、富谷町が想定していた、弁護士登録をしない法曹有資格者が行う自治体の無料法律相談が、弁護士会が問題視するような「非弁行為」に当たるのか、ということへの疑問です。既に、坂野智憲弁護士がブログで詳しく取り上げていますので、是非、ご覧頂ければと思いますが、自治体の給与は法律相談との関係では個別的対価性を欠くので「報酬」に当たらず、弁護士法72条違反にはならないと考えるべき、ということと、仙台弁護士会として、きちっとした機関決定を経ているのかどうかへの疑問を提示しています。他の弁護士から聞こえてくるのも、同様の弁護士会の対応に首を傾げるものです。

     さらに、嫌な感じがするのは、坂野弁護士も言及していますが、この弁護士会の対応に、日弁連の「改革」路線に沿った、いわば政治的な匂いがするところです。弁護士の増員路線が、需要の問題で行き詰る中、自治体を弁護士の「受け皿」として期待する、逆にいえば、そうした期待のもとに、この路線を維持したい日弁連の方針からすれば、富谷町が考えていたような、自治体が弁護士登録なしで資格者を活用する方針を、前例として歓迎するわけもない。その意向に、仙台弁護士会はかっちりと沿ったのではないか、という話です。

      「無料市民法律相談を担当するには弁護士登録をしなければならない」との主張は、日弁連の方針に極めて「協力的」という見方がされている弁護士市長の兵庫県明石市が、弁護士会費の公費負担についてマスコミ等から批判されたときに、弁護士法72条に抵触しないようにするには弁護士登録が必要であるから、弁護士会費は職務遂行のための必要経費で、公費負担も違法支出とならないと釈明したもの、という事実もあります(「『弁護士のため』という疑念」)。

     当事者である富谷町の担当者に、改めて取材しました。結論から言うと、一言でいえば、町としては「困惑している」という状況です。分かったことは、仙台弁護士会の「指摘」というのは、町の採用方針が報道された直後の、今年1月に書面で行われ、「非弁行為」を警告するような調子のものではなく、「質問」。つまり、登録しないで、当該職員に法律相談をさせた場合、弁護士法に抵触する可能性があるが、町としては、どう対応するつもりかを質すものだったということでした。町としては、違法にならない形をとるということと、登録に関しては、あくまで当該職員の意思による、という趣旨を回答したそうです。

     しかし、町として、弁護士会側の言い分に納得したわけではなく、採用された有資格者自身も、あくまで登録は必要ないという認識でした。一方で、弁護士会と正面から争うことは避けたいということから、やむなく条例改正の道を選んだものの、議会の了解は得られず、今のところ、今後の方策のめどは立っていないという状況のようです。弁護士会や学者の見解の中に、前記したような仙台弁護士会の主張とは異なるものがあることも分かり、事態を見守っているということでした。

     ただ、町の担当者は、取材に応じたマスコミ関係者などから間接的に聞いた事実から、日弁連はこの件では、「中立」な立場で、今回の一件は、あくまで仙台弁護士会の見解によると理解していました。マスコミの取材に対して、この件で日弁連は、前記したような「期待感」と結び付けられることがないような姿勢をとっている、ということなのでしょうか。

     問題は、非常にはっきりしていると思います。つまり、この弁護士会の対応、あるいは方向は、自治体、ひいては市民のためになることかどうか、という点です。

      「常識的に考えても、法律相談部に所属する大学生が無償で市民法律相談を実施する場合と、自治体の法曹資格を有する職員が無償で市民法律相談をする場合とで、相談者にとって何が違うというのでしょうか。また、国や自治体では消費生活相談員が消費者問題に関する法律相談を実施していますが、これも非弁行為ということになってしまいます」
      「国や自治体が行う消費生活相談業務に携わる相談員となるためには、資格が必要とされています(消費生活専門相談員資格認定制度)。消費生活相談自体は無料であっても、相談員が自治体などから給料を受けると非弁行為になるというのなら、相談員はおよそボランティアでなければならないこととなってしまいます。そのような制度設計がナンセンスであることは言を俟たないところです」
      「相談員が行う消費生活相談業務は弁護士が行う相談業務と異なり『法律相談』といえないという反論も考えられますが、このような見解は弁護士の驕りでしかないでしょう」

     今回の件では、このブログと「司法ウオッチ」の読者から、こんな匿名のコメントを頂きました。少なくとも、「改革」路線にのっとった、弁護士会のなんとかしての、弁護士採用促進運動が、その路線が、何かにつけ持ち上げてきたはずの、市民や社会の「ニーズ」より優先されているととられかねない事態であることを、弁護士会は認識しているのか、あるいは覚悟したうえでのことなのか。今回の事態からは、そのことをどうしても問いたくなります。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
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