弁護士の「優しさ」

      「人に優しく」ということが、弁護士の心構えのなかで語られてきました。それは、かつてならば、長老然とした弁護士が、「弁護士道」を語るなかで言われたように思いますし、今でも、弁護士自らが、その目標として、「優しい弁護士になりたい」と表明したりしています。

     その意味するところは、大きく二つであるように思います。一つは正義への感性として。以前もご紹介しましたが、元最高裁判事の色川幸太郎弁護士は、一人前の弁護士の資格・条件の一つとして、「徳目」を挙げ、それは、「他人の不幸に対する感応力」であり、「不正に対して憤る力」だとしていました(「『義憤系』弁護士のすすめ」)。不幸に対する感応力は、人に対する優しい目線によって生み出されるととらえれば、「優しさ」が弁護士の基本的な心構えとされることもうなずける話です。

     もう一つは、現実的な対依頼者との関係として、です。問題を抱えている依頼者・市民に対して、できるだけ親身に、そして接しやすく望むことで、解決策を導き出す。そういうアプローチの方が、彼らから的確な情報を引き出せるという面もありますし、感情的なものが邪魔せずに関係を構築したり、スムーズに話を進められるということもあります。以前、紹介しましたが、かつてある大物弁護士は、依頼者が「素人」として間違うところも含めて、弁護士が背負うべきとしていました。「親切」であるということは、依頼者にとっても、弁護士にとっても、現実的な障害の除去として有効のようにとれます。

     ところが、あるサイトに弁護士相談体験談として、こんなタイトルの記事が掲載されています。

      「弁護士に優しさは期待しない」

     内容は、優しくなかった弁護士の話です。相談内容は、旦那の「浮気」と「離婚」。喧嘩をして家出した相談者に、その弁護士は優しく接するどころか、「家出をするということは、奥さんだっていく先があったんじゃないの?(男がいたんじゃないの?)」「あなたが思っているほど、慰謝料は取れないよ」という調子。「正直なんど泣きそうになった」。その後の調停から裁判についた弁護士も、同じタイプだったらしく、「何度”むかっ”とし」「泣きながらクレーム並みの文句を言ったことも」――。

     しかし、この相談者の、弁護士たちに対する評価は、決して悪いものではありません。

      「弁護士さんは、クライアント(相談者)に嘘をつかれては、きちんとした答えが出せないし、現実をきちんと理解した上で裁判などを起こさないと、結局裁判を起こしてもクライアントの得にならないこと踏まえての発言だったのだと思います」
      「弁護士さんは、決してクライアントの心の拠り所にはなってくれません。むしろ、腹の立つことばかりでした。なぜなら、弁護士さんはカウンセラーではないから。弁護士の先生のお仕事は、クライアントがいかに得をするかあるいは損をしないか。それを法律という土俵の上で、同上手に戦うかがお仕事なのです。そのためには、場合によっては感情そのものが邪魔となるのです」
      「はじめは弁護士さんの冷たさに辟易とした時期もありましたが、全てが終わってみると、そのことが理解でき、また、そのことに今となっては非常に感謝しております」

     弁護士という仕事に対する非常に的確で、正しい理解だと思います。だからこそ、このサイトが体験談として紹介している意味もあるわけですが、ただ、正直な感想をいえば、これが一番肝心なことですが、こんな相談者ばかりでも、こんな弁護士ばかりでもない、ということだろうと思います。

     冒頭の接し方で感情的にアウトという市民はいくらもいるはずですし、果たしてその真意が伝わるまで、その依頼者と弁護士の関係が続くとも限りません。あるいはこの弁護士は、相談者のタイプを見て、あえてそう接する方が事実を引き出せると考えて、テクニックとしてやったのかもしれませんし、そうならば、そもそもこの弁護士が「優しくない」ということにもならないわけですが、それは一般的には分かりません。クライアントの損得を法律という土俵で争う、そのために感情が邪魔、なんていう境地に、クライアントが立つ前に、前記したように正しい弁護士の主張への理解の邪魔になる感情か生まれることの方があり得る話です。

     しかも、結果如何という問題もあります。このケースでの相談者にとって、どういう結果の評価のうえで、これが語られているかは、推測するしかありませんが、結果の満足度によって、「優しくなかった」対応の評価が変わってくることも現実的にはあるはずです。このケースは、弁護士としては、ある意味、有り難い展開というべきかもしれませんが、むしろ、「こんな理解を相談者全員がしてくれるのであれば苦労しない」というのが、弁護士としては本音だと思います。

     冒頭に掲げた二番目の「現実的な対依頼者との関係」として、「優しさ」の部分こそ、これまでの弁護士の配慮不足への不満・批判、態度が大きく、傲慢、威張っているといった、ネガティブな評価に直結していた部分ということができます。増員政策のなかで、弁護士が競争とサービス業としての在り方を自覚するなかで、「接客の在り方」として、近年、ここを留意し出している弁護士は増えているという印象があります。

     しかし、その一方で、この競争を意識する中で、個人事業者として割り切るなかで、「優しさ」が忘れられていく状況もあり、むしろ一番目の「感性」として「優しく」あることを残すべき意識として感じている弁護士もいるようです(「人に、優しく~弁護士。人に優しくあれ」) 。

       「弁護士に優しさは期待しない」ということは、依頼者・市民が、弁護士の仕事の本質を見抜こうとするためには、正しいアドバイスではありますが、やはり、依頼者・市民に対して、正しく「優しい」ことが求められているのが弁護士の仕事であるというべきなのです。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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