「橋下発言」への対応という課題

     連日、マスコミが報じている橋下徹・大阪市長の、いわゆる日本軍「慰安婦」発言に対して、弁護士・会が対応し始めています。山岸憲司・日弁連会長は5月24日付けで、問題の「制度は必要だった」発言と、「風俗活用」部分を取り上げ、「女性の名誉と尊厳を傷付け不適切極まりない」として、発言の撤回と制度被害者への謝罪を求める会長談話を、さらに、地元・大阪弁護士会の福原哲晃会長も同月27日、「人権を軽視する風潮を助長し、人権侵害を容認するような発言」として強く抗議する声明をそれぞれ発表しました。

     一方、大阪弁護士会の複数の弁護士が同月29日、橋下氏の発言が「弁護士の品位を害する行為」に該当するとして、同弁護士会に懲戒請求したことが報じられています(毎日jp)

     ただ、同じ発言を問題にしたこの二つの対応には、大きく異なるところがあります。前者の日弁連会長談話と大阪弁護士会声明が問題としている発言の主は、「日本維新の会の共同代表であり大阪市長である」橋下氏であって、どこにも「当会会員でもある」とは書いていません。つまり、公人の立場としての発言を問題にしているのであって、弁護士としてアウトだといっているわけではありません。一方、後者は弁護士として問題であるとしているわけで、別の言い方をすれば、前記のような弁護士会の対応に加えて、さらなる対応を求めているということにもなります。

     したがって、二つの対応の妥当性については、別のことが問われることになります。つまりは、前者については、今回の橋下・大阪市長の、いわば政治的な発言が、公人による人権問題として、弁護士会が抗議・撤回を求めるようなものであるのかどうか、後者については、彼が公党の代表・市長として発言したことであっても、弁護士であるということをもってして、弁護士の懲戒事案として扱うべきなのか、ということです。

     5月29日の定例記者会見で、橋下市長は、この後者について、強く反発しました。

      「品位を欠く」という抽象的な弁護士法の規定は、不明確で危険。表現の自由を規制するルールのなかに、こうした抽象的な規定が入るのは問題で、気にくわない弁護士を懲戒にかけるという恣意的対応ができてしまう。発言は特定個人の名誉を毀損するようなものではなく、一般的な政治的見解。これを弁護士の懲戒対象にしようとするのは、政治活動への挑戦。弁護士として発言したのではなく、あくまで政治家としての発言であり、問題があるならば、われわれは有権者から政治的審判を受ける立場だ――。

     問題となる弁護士の懲戒事由を規定した弁護士法56条1項には、「品位を失うべき非行」の前に「職務の内外を問わず」という断りがあります。職務外でも、弁護士という立場として、その言動は「品位」を保つべきということになりますが、橋下市長は、そもそもこの法律の欠陥を指摘していますし、現実問題として、政治家としての彼の発言も、弁護士にあるまじき、として問うべきかどうかという話にはなります。さらに、現実的なことをいえば、橋下氏が弁護士であることを多くの人が認知していることからも、彼の発言をして、弁護士全体の「品位」を害することになる、とみるかどうかということでもあります。

     また、前者の弁護士会の対応についても、橋下市長の言い分からすれば、一政治家の見解に対して、ここまで弁護士会が行う必要があるのか、という問いかけにはなりますし、実は弁護士の中にも、この点では首をかしげる声もあります。ある弁護士ブログ氏は、こう言います。

      「私は個人的に橋下氏の発言を支持するものではない。しかし、憲法によって言論の自由は保障されており、それが違法でない限り、自己の信条を発言することに弁護士として何か問題はあるのだろうか。政治家としての資質の問題はまた別問題であって、国民によって判断されるべき問題ではあるが、弁護士が弁護士として容喙すべき問題ではないと思う」
      「しかも、弁護士になる以上加入することが強制されている弁護士会が,その会員が述べた違法でない発言を批判することは許されるべきではないと思う」
      「在野法曹である弁護士には、それが違法行為でない限り自由に発言することが許されてしかるべきであり、後は議論の結果や世論によってその当不当が判断されるべきであり、弁護士会が関与すべき問題ではない」( 「もみじ日記」)

     従来の弁護士会の立場からすれば、判断基準は、事案の人権侵害性ということに尽きるとは思います。政治的に発言されたり、そうした意味を持つ行動を、人権という尺度では例外にしない、ということになります。ただ、政治的という意味において、強制加入制度における会員の思想・信条との関係で、弁護士会は微妙な立場にも立ってきました。つまり「人権」という一字をもってして、会員の了解をどこまで得られるとみるのか、その尺度、あるいは限界の問題です。

     おそらく、前記ブログ氏のように、今回の橋下発言を自己の信条に基づく、政治家の発言であり、ここは弁護士会が口を出すべきではなく、国民の審判に任せるべきだ、という考えの弁護士も少なからずいると思いますし、一方で、人権にかかわるとみる限り、ここは例外なく、弁護士会が対応しなければ、それこそ存在意義が問われるという認識に立つ弁護士もいると思います。

     橋下発言への対応という課題は、弁護士会が実はずっと抱え続けている弁護士会の使命と自治に対する、会と会員の認識というテーマを奇しくも浮かび上がらせることになっています。


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    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


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