弁護士保険と日弁連の関係をめぐる弁護士の疑問

     トラブルに巻き込まれた市民の中にある弁護士費用への不安感解消という観点から、日弁連が進めてきた弁護士保険(権利保護保険)は、損害保険会社が自動車保険に付した弁護士特約として、それなりに一般化したイメージがあります。この特約の運用では、日弁連側の運営主体となっているリーガル・アクセス・センター(LAC)と協定を結んでいる保険会社の保険契約者が、この特約を利用したい場合、保険会社がLACに弁護士の紹介を申し込み、LACから各単位弁護士会に打診され、各弁護士会がLAC登録の弁護士に同案件を配点するといったシステムがとられてきました。

     実はいま、この弁護士保険と弁護士・会の関わり方を、疑問視する声が会内の一部から聞こえてきます。LACは昨年、前記紹介システムついて各弁護士会に規則制定を求め、そのモデル案を提示、それを受け、各会で検討・制定の動きが出ています。その背景には、このシステムでの担当弁護士の不適切処理が問題になっているということがあります。保険会社、弁護士双方に守秘義務の壁があり、会内でも事案に関する情報はほとんど共有されていないという実態もありますが、トラブルの多くは金銭トラブルとみられています。

     日弁連の規則制定の要請のなかには、「弁護士自治」が登場します。前記モデル案とともに、LACが提示した解説のなかに、次のような一文がありました。

     「もし、この状況をこのまま放置し、弁護士会により紹介される弁護士の質の確保がなされなければ、この弁護士紹介システムのみならず、弁護士そのものに対する信頼が損なわれかねず、弁護士は自治の観点からも問題となる恐れがあります」
     「また、弁護士会が紹介弁護士の質を確保できないとなれば、弁護士会に代わって保険会社自らが選別した弁護士(パネル弁護士)を紹介したり、保険会社が紹介弁護士の拒否権を留保するようなことも考えられるところ、そのような事態になれば、弁護士あるいは弁護士会の主体性が失われ、保険会社に従属するようなことにもなりかねません」

     そして、LACのモデル案のなかには、以下のような趣旨の規定が盛り込まれていました。

     ① 登録弁護士の名簿の有効期限を1年とし、自動更新とはせず、1年ごとに登録要件を確認する形にする。
     ② 弁護士登録期間が3年以上(「法曹経験」でなく「弁護士経験」)であることを登録要件とし、推薦の最低基準とする(研修による許可も)。
     ③ 過去3年間に懲戒歴があるものは登録の対象外とする。
     ④ 懲戒委員会の審査、綱紀委員会の調査の各対象になっていてるもの、過去1年以内に市民窓口への苦情申し出、紛議調停申し立てまたは懲戒請求が合計3回(同一事件当事者からの複数回苦情は1回と算定)で、会が名簿登録不適当と判断したものは登録できない。

     「損保のリクエストなのだろうが、ここまで損保におもねる必要があるのか」

     今回のLACの対応に、ある弁護士はこうもらしました。「質の確保」をうたいながら登録期間3年以上というのを弁護士会自身が提示する意味、弁護士歴3年以内ではLAC案件をやらせるべきでない、と会が判断してしまうことの当否です。内容問わず懲戒歴があるものを除外したり、さらには審査・調査対象の段階のものまで除外の検討対象にすることを、会自らに規定させようとしている点も議論になるところです。不適正処理の中身がはっきりしないなか、どこでそれがかみ合っているのかも、多くの会員には分かりません。

     ④については、会に判断をゆだねながら、1年に別人3人から苦情がもたらされる会員は「本人の適格性に問題があると推認される」から「『不適切』と判断いただきたい」とか、「弁護士会(会長)が非行の客観的事実を知りながら当該弁護士を推薦することが、依頼者及び協定保険会社の信頼を信頼を損なうことにならないか」を基準に判断をお願いしたい、と付言する念の入れようも、会員の前記したような感情につながっているようです。

     会員の感情には別の現実的な背景もあります。それはLAC案件の経済的な妙味のなさ、という点です。複数の会員の感想として、小さな物損を争う事件(修理費10万円など)、人損であってもせいぜいむちうち症のケースなど事件としてはやや小さいものがほとんど。「損保は大きい案件は従来からの顧問弁護士に回し、小さい案件をLACに回しているのではいか」という、疑念の声が異口同音に聞こえてきます。そもそも交通事故事案自体、近年、専門を看板にする事務所の独占化が進んでいることもあって、一般の事務所では以前のように扱えなくなりつつあるという傾向もあります。現実的な経済的な妙味から、交通事案さらにLAC登録から手を引くという弁護士も少なくないなかで、今回の対応はLACに対する会員の冷ややかな感情をさらに高めるとの見方もできるのです。

     前記LACの解説に出てくる「弁護士自治」という言葉の使い方は、先般の「依頼者見舞金制度」創設を求める日弁連執行部の提案の中のそれとほとんど被って見えます(「『改革』を直視しない弁護士不祥事対策」)。不祥事をこのまま放置すれば、弁護士の信頼が失われ、やがて弁護士自治まで失われる、と危機感に訴える形です。もはやそれが会員の心にストレートに響かなくなっているのは、その弁護士自治を支えるはずの個々の会員側に、日弁連・弁護士会が立っていないのではないか、と会員が疑いたくなる現実があるからのように見えます。

     各会の規則は、前記したような会員の意識離反が手伝って、逆に無関心のなかで一部を除き議論もないまま、制定に向っているという状況もあるようです。冒頭書いた「弁護士保険」の発想のなかには、弁護士費用の不安解消は、弁護士へのアクセス障害の除去であるとする見方もありました。ただ、肝心の弁護士をつなぎとめる、ということは、どこまで織り込まれているのか――。一般化してきた弁護士特約の裏で、そこも疑いたくなってくるのです。


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    千葉県弁、法曹人口協議申し入れの波紋

     法曹人口の削減をめぐり、千葉県弁護士会が3月4日に行った日弁連への申し入れが、弁護士会内で話題になっています。関係者によると、その内容の柱は、概ね以下の3点です。

     ① 日本弁護士連合会は、今後の法曹人口政策について、千葉県弁護士会と協議の意向があるか。
     ② 司法試験合格者を1500人程度は輩出されるようにするという現行の政策について、政府へ人数削減を求める意向があるかどうか。
     ③ ①②について、本年4月末までに文書で回答されたい。回答がない場合や協議に応じない場合、千葉県弁護士会は司法修習生の実務修習について受け入れ制限を検討する。

     話題の中心は、この申し入れが③の実務修習の受け入れ制限検討を、日弁連に突き付けている点です。同弁護士会は、これまでも法曹人口問題では減員方向の提案をしてきた会であり、同様の動きは全国の地方単位会のいくつかで見られてきましたが、日弁連の対応をにらんだ、ここまで踏み込んだ申し入れがなされたことはありません。

     同会関係者も「劇薬」と呼んでいる、このカードを切った背景には、弁護士過剰による経済的状況が深刻さを増して、「待ったなし」の状況であることに加え、この問題に向き合っていない日弁連執行部へのいら立ちがあります。日弁連は昨年3月に開催した臨時総会で 司法試験年間合格者を直ちに1500人、可及的速やかに1000人以下にすること、予備試験の制限への反対表明と給費制復活をうたうよう求めた招集請求者案を否決し、「取りあえず1500人」という目標にとどめる執行部案を可決しました(「3・11臨時総会からみた『改革』と日弁連」)。

     しかし、その後も、日弁連はこの問題で、その方向での積極的な活動をしていないという現実があります。この消極姿勢は、「改革」による経済的な影響が、ここまではっきりとしていながら、結果的に依然増員路線を堅持するものとして、増員反対・慎重派会員間の不満、不信につながっています。

     こうしたなかで千葉県弁護士会が突き付けた、実務修習の受け入れ制限検討は、これまでのような形の地方会からの減員要求では動かない日弁連を、なんとか前に動かすための一石だった、ということになります。実務修習への地方会の貢献という視点も、そこに打ち出した格好です。

     この千葉県弁護士会のアクションには、同会だけでなく、他会からも異論が噴出しています。一つは今回の申し入れが、常議員会の決定を経ずに、理事者の決定だけで執行されている点、そしてもう一つはやはり司法修習生を巻き込む形になった点です。とりわけ、後者については、「修習生に不利益を与えるのは筋違い」「修習生を人質にとっている」といった批判的意見が聞かれます。また、千葉県弁護士会の実務修習での受け入れ人数は今年61人、過去最も多い時でも86人で、仮に人数制限が行われたとしても、そもそも日弁連執行部を動かすようなインパクトはない、といった冷ややかな意見も聞かれます。

     しかし、同会関係者の一人は、「現在の弁護士の状態が続くことは、この世界でやっていこうとする修習生には、もっと大きな不利益につながるはず」としていました。また、仮に地方会が次々に実務修習制限を掲げることになれば、それは相当な異常事態として、法曹界として無視できないものになる可能性はあります。

     同弁護士会の執行部は、前記申し入れに対する日弁連の反応がなかった場合、予定通り具体的な人数を挙げた受け入れ制限案を、常議員会を経て、5月の総会に諮る方針ですが、会内から相当な異論が出されることが予想され、先行きは不透明です。また、今のところ減員要求に同調する地方会から、千葉県弁護士会に続く具体的な動きは確認できませんが、ただ、いずれにしても、今回の申し入れは、地方会からの減員要求と、それをめぐる日弁連との対峙あるいは抵抗が、実務修習を絡めた新たな段階に入ったことを予感させるものとして、その成り行きが注目されます。


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    「会費」をめぐる理解し難い弁護士会の姿勢

     高いことで定評のある弁護士会の会費に対して、弁護士会外の人間から、よく二つの疑問の声を聞きます。一つは、いうまでもなく、なぜ、そんなに高いのか、ということですが、もう一つは、会員である弁護士はなぜ、それに納得しているのか、ということです。もちろん、前者については弁護士会には自治があり、自前の登録・懲戒業務があることに加えて、人権にかかわる公的な活動を引き受けていること、そして後者については強制加入であり、会費を払って弁護士会員でいなければ業務ができない、許されていないという一般的な説明は用意されます。

     ただ、それでも弁護士の激増が現実化していることを考えれば、むしろ弁護士会が財政的には楽になり、それが個々の会員に還元されていいというイメージにはなりますし、後者についていえば、本格的な減額提案を含めて、会員がなぜ、積極的にそちらの方向で動かないのか、というのは、なかなか理解できない点のようにみえます(「弁護士会費『減額』というテーマ」)。

     確かに弁護士会の場合、そもそもこの会費に対しての会員の理解度、許容度は、これまで比較的高い、寛容であると思ってきました。前記公的な意味において、弁護士自治とともにその活動を支える意義をいう人はいます。もちろん、負担感は個々の弁護士の経済的事情によって違うわけで、かつていまほど会費の高さが取り沙汰されなかったのは、ひとえに会費に負担感を覚える会員が相対的に少なくて済んでいた、弁護士全体の経済環境があったから、ということもいえなくはありません。

     ただ、やはり会費について、今も弁護士は全体的にまだまだおとなしいといえます。それは、仕方がないからだという意見もありますし、弁護士の中にはやはりまだ、同業者にそこまで経済的に困窮しているようにとられたくない、という意識もあると聞きます。

     しかし、こう見てくると、一方でこの点が弁護士会主導層の会費問題に対する姿勢、要はこういう形で会員から理解され、許容されてきたということにあぐらをかくような、楽観的な捉え方につながってきたのではないか、とも思うのです。

     弁護士会の会費は高額であると同時に、徴収者である会が会員の滞納に対して厳しい姿勢をとることで知られています(「『会費滞納』に対する姿勢の意味」)。それもまた、前記した弁護士自治と結び付けた理解や、業務が可能となる条件として諦めに近い納得の仕方がされるという自信に裏付けられています。それに加えて、最近は特に、公平ということが強調され、経済的な負担感が増していることをにらんで、逆に、「みんな苦しい中、出しているのだから、滞納は厳しく取り締まらなければ、他の会員に申し訳ない」といった論法を繰り出す理事者も増えているようです。

     しかし、問題は根本的にこれまでの弁護士会の姿勢が今後も通用するのかどうか、また、そうした姿勢で臨むことが、本当に弁護士・弁護士会にとってプラスなのか、という点にあります。

     弁護士事務所、インハウスを経験後、就職先が見つからず、弁護士会・日弁連会費計47万2500円を滞納した53期の元女性会員に、東京弁護士会が同滞納分の支払いを求めた訴訟の控訴審判決が、今月、東京高裁で言い渡されました。結果は、1審同様、元会員が敗訴。彼女が滞納したのには、個人的な事情とともに、もちろん「改革」の弁護士激増政策の影響もありました。1審は本人訴訟、2審は複数の弁護士がついて、そうした事情についても主張しました。

     このなかで、この元会員は会費が高額であるのに、生活困窮者や会務活動休止者に対する減免措置や救済業務を行わない弁護士会の姿勢の問題を指摘しています。しかし、東京弁護士会も裁判所も、要は会費納入義務があるのに納入しない会員に請求するのは当然、決まりは決まりという論法からは踏み出すことなく、結論を導き出しました。減免措置なども、「裁量」だから日弁連・弁護士会に義務付けられていない、というのが裁判所の判断でした。

     元会員側によれば、同弁護士会は訴訟前も、ほとんど彼女の事情に耳を貸すことはなく、対応した理事者からは「会費納入は会員の義務」「6ヵ月以上滞納すると懲戒対象になる。最初は戒告から始まって最後は退会命令を出すことになる」と告げられたとしています。

     この結果については、弁護士のなかにもいろいろな捉え方をする人はいると思います。弁護士会側の「決まりは決まり」的な姿勢に賛同する人もいるかもしれませんし、それこそ前記したような「他の会員も苦しい中、納入している」という論法をここにあてはめるかもしれません。

     ただ、あえていえば、弁護士会としては、むしろ裁判所が言った「裁量」の問題として、この元会員が投げかけていることを考えるべきときなのではないでしょうか。そもそも目を離してみれば、前記論法は「苦しい」方に合せろ、といっているのと同じで、ここにも減額など念頭にない、高い会費の徴収が常に会員の了解のもとにあるとみているような楽観視が見てとれます。この元会員のような人に、もっと良心的に手を差し延べる弁護士会の姿勢・態勢は、会費への会員コンセンサスがぐらつき出している今こそ、意味あるものになるととれないでしょうか。元会員に限らず、会員の経済状況を結果的にここまで追い込んでいる「改革」を推進している責任、という視点もあっていいはずです。

     控訴審提出の書面で元会員側が、こう主張している下りがあります。

     「会員数が大幅に増加した後も被控訴人(東弁)は高額会費を維持している。被控訴人の2015年度の収支は1億5700万円を超える黒字であり、繰越収支差額(剰余金累計学)も15億円以上で、年間の会費収入13億円を大幅超過している。つまり、被控訴人は1年以上にわたって全会員の会費を無償としても運営できる財政基盤を有しているのである」
     「そのような状態にある被控訴人が、苦労して得た弁護士資格を返上し弁護士会を退会するという途を選ばざるをえなかった控訴人に対して、50万円に満たない未納会費を請求するために、支払督促、裁判という手法を選択したのは、会費を支払わないとこうなるという会員に対する一種の『見せしめ』というほかない」

     この指摘をみればなおさらのこと、弁護士会の会費をめぐる現実は、やはり一般には理解し難いものを含んでいるといわなければなりません。


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    懲戒請求に発展した委任状変造問題

     3月3日の日弁連臨時総会で、3人の東京弁護士会会員の委任状の受任者が、委任者の承諾なく、他の会員に書き換えられていた問題(「弁護士自治の足を引っ張った日弁連臨時総会」)について聞いた、弁護士会外の人の反応は、ほとんど一様に「理解不能」というものでした。それは、いうまでもなく、委任者の意思を反映させるというその役割を根本的に否定するという意味では、委任状の扱いとして絶対にあってはならないことであり、なおかつ、それが法律の専門家集団である弁護士会であれば、およそ最も起こり得ないと考えられるところで発生したという二重の意味において、当然の反応ではありました。

     このことを踏まえると、臨総終了直後から、東京弁護士会サイドから出され、同月7日には小林元治会長名で出された談話のなかでも示された「事務的なミス」という説明、さらには会内の一部に出始めている、この説明でこの事態を収拾すべきとするようなムードには、前記反応と隔絶したものを感じてしまいます。

     「弁護士会だってミスはする」という弁護士がいました。まさに東京弁護士会の立場は、そこにすがるものにみえます。しかし、前記エントリーでも書きましたが、受任者名が書かれているにもかかわらず、白紙委任状として疑いもなく分類し、そこに書かれた受任者を疑いもなく訂正した(他の職員が誤って別の名前を書き込んだと判断した)という「ミス」を重ね合わせる不自然さ。それに加えて、そもそもこんなことが起こり得る白紙委任状の扱いが、こともあろうに弁護士会でなぜ行われていたのか、という疑問。ここが二重の意味で「ミス」で片付け難い問題である、という認識が、どこまで同会理事者にあるのか、という疑問に突き当たるのです。

     ここにもう一つ、付け加えなければならないは、「責任」という問題です。「ミスであれば、弁護士会という組織は、一体、誰が責任をとるのですか」。前記反応のなかで、こんな疑問の声を聞きました。前記談話のなかにも、「事務局が」「職員が」という言葉が出てきます。しかし、たとえ「ミス」だとしても、前記事情をみれば、「ミス」に関する監督責任だけでなく、これをやらせていたという根本的な責任が会執行部にある、と考えなければならないはずです。原因究明や再発防止に言及した談話をみても、その点でもなにやら一般の目線とは隔絶した、この問題への甘い認識をみてしまうのです。

     こうしたなか3月22日、この問題は遂に、受任者名を書きかえられた3人の委任者の一人である八坂玄功弁護士が、東京弁護士会に対して、会長である小林元治弁護士の懲戒請求(会の対内関係における秩序を乱し、対外関係における信用を著しく毀損〈弁護士法56条1項〉、同時に、品位を失うべき非行〈同法56条1項〉)を申し立てるという事態に発展しました。

     懲戒請求のなかで、八坂弁護士は前記「ミス」で説明する弁護士会の見解の不自然さとして大略以下の5点を挙げ、変造は意図的であり、それが会長印の押印で行われていることから、同会長の責任は明らか、と主張しています。

     ① 受任者名が明記されている委任状と明記されていない委任状とでは外見上、容易に見分けがつくものであるから、受任者名が明記されている委任状を白紙委任状と誤って分けたという説明は極めて不自然。
     ② 白紙委任状には執行部側が出席予定の執行部案に賛成の会員の名前を受任者として適宜補充するとの運用が仮に許されるとしても、白紙委任状に受任者名を記入する際に、本件においては、受任者名欄に北周士会員の氏名、登録番号が委任者名と同じ筆跡で明記されていたのであるから、他の事務職員が受任者名を誤って書き入れたと誤信したとの説明は極めて不自然。
     ③ 受任者名を(委任者印ではなく)東京弁護士会会長印で書き換えるといった方法は、法律の素人であっても有効性に問題を感じるのが当然のやり方であって、弁護士業務に日ごろから触れている事務職員が勝手にやれるはずはない。東京弁護士会会長から明示または黙示の指示がなければやれない。
     ④ 受任者である北会員が委任を受けていた18通の委任状の内、3通もの多くの委任状が受任者名を書き換えられていた。仮に単純ミスであるとしたら、北会員という特定の受任者にのみこのような高い割合で単純ミスが重なるとは到底考え難く、この点でも、東京弁護士会会長側の説明は極めて不自然。
     ⑤ 本当に「ミス」によるものなのか、委任者ら本人が受任者名の書き換えに同意したのかは、委任者ら本人に確認しなければわからないはずなのに、変造問題発覚後、会長は、委任者ら本人に一切確認おらず、何らの照会もしなかったことは極めて不自然。

     さらに、八坂弁護士は、これが「ミス」としたとしても、なぜ、こんなことが弁護士会で発生したか、という前記疑問に関わる重大な指摘をしています。それは、すばり「従前から、東京弁護士会においては、日弁連総会などにおける弁護士会長印による受任者の書き換えが行われることが常態となっていた」というものです。その問題の運用を大略次のようなものであるとしています。

     ① 執行部が執行部提案に対する白紙委任状をかき集めるとともに、総会当日に出席する執行部派の会員に、一人50通までというルールの範囲内で適当に委任状の受任者を割り振るという運用を行ってきた。
     ② 委任状の中には、執行部提案に賛成であっても受任者名が明記されているがその受任者が総会に本人出席しない場合、いったん受任者を割り振ったもののその受任者が都合により総会に本人出席できなくなった場合、何らかの事情で受任者が明記された委任状が50通を超えてしまった場合等がある。
     ③ それらの場合に、執行部提案に賛成する委任状を死票としないために、会長印によって、受任者名を総会当日本人出席する執行部提案に賛成する会員名に書き換えていた。

     つまり、ここで指摘されているのは、委任状の持つ本来の意味よりも、とにかく執行部提案を通すことに前のめりになっている弁護士会の姿勢です。受任者名が書かれている委任状の受任者が、委任者本人の意思確認もないまま、会長印によって実行されるという事態は、こうした東京弁護士会の慣行の中で発生した、ということになります。

     法律専門家集団のなかで常態化していた委任状をめぐるこの扱いをみてしまうと、冒頭の「理解不能」という反応が、より正常なものに感じられてきます。隔絶感というのであれば、そもそもこの問題が発覚しながら、採決に及んだ日弁連執行部と、それを受け入れた多数の出席会員にも覚えたこととではありました。しかし、今回の事態に対する責任と、委任状をめぐる慣行に弁護士・会が、これからどう向き合うによっては、前記した隔絶は、いよいよ決定的なものになるとみなければなりません。
     

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    弁護士自治の足を引っ張った日弁連臨時総会

     3月3日の日弁連臨時総会は、この国の弁護士が、弁護士自治を守り続けるという考えに立つのであれば、歴史に残る大失敗だったと思います。弁護士不祥事続発が自治を揺るがすという危機感から、弁護士の横領事案被害者に見舞金を出す制度の新設を決めるという、まさにその総会で持ち上がった前代未聞の委任状変造問題。それらは、二重三重の意味で、弁護士自治にとってはマイナスのものになったとしかみえないのです。

     この日、提案の8議案のうち、最も注目され、賛否の分かれていた見舞金制度創設。弁護士が不祥事によって市民の信頼を失う、ひいては法律事務独占や弁護士自治を失うことになるという危機感を会員が共有している、一会員の不祥事は全会員の問題という論法で、故意犯の「尻拭い」とみられるような見舞金を、強制加入団体の会費から支出するところまで押し通す発想です。

     しかし、これが不祥事の抑止と信頼回復に効果を発揮するとは提案者も認めていません。不祥事の根本原因が、増員政策による弁護士の経済的異変にあるとすれば、そこが見直されない限り、不祥事は続く、被害者一人当たり上限500万円支出の信頼回復への効果もさることながら、延々とその支出が続く。増員政策と経済圧迫が続くのであれば、不祥事の信頼回復ができないだけでなく、決定的に会員の気持ちは強制加入・自治不要に傾く――。

     現に当日、会場からは、会員は「見舞金制度を作らなければ維持できない自治なんかいらない、強制加入なんていらない、になる」として、この制度が弁護士自治の終わりの始まりになることを強く危惧する声が出ました。

     弁護士会の不祥事対策は、これまでも「効果」よりも、弁護士自治がある以上、何もやらないわけにはいない、という、ある種の建て前に押されて繰り出されてきた面があります。今回の見舞金制度もそうしたものとみることはできますが、対外的な評価の前に、もはや自治の内部崩壊、あるいは息の根を止めるかもしれないところまで来ていながら、それが繰り出されているということを執行部は本当に理解していないのか、という気持ちにさせられます。

     そして、まさにこの議事の最中、委任状の変造問題が会員の指摘で明るみに出ます。委任状の委任先の弁護士名が別の弁護士名に書き換えられ、弁護士会の印が押されていた。少なくともこれまでに東京弁護士会の3件について、この対応が発覚しましたが、執行部は会場でも「事務的なミス」と説明し、また、総会後、東京弁護士会は即座にメディア向けに、「ミス」の経緯を説明しています(弁護士ドットコムNEWS)。

     要するに、白紙委任状のなかに問題の名前が書かれていた3通が混じったために、前記のような扱いになったという説明ですが、名前が書かれたものであることを確認できるチャンスがあったことと、名前が書かれていながら疑問に思わなかったことの不自然さを考えれば、これを「ミス」ととらえられない人がいても当然です。さらにいえば、この白紙委任状の扱いが、これまでの日弁連の議決で果たして公正に行われてきたのか、賛成票獲得へ操作されていなかったのか、という疑念が生じたとしても致し方ないように思います。いくら「ミス」といっても、対外的にみて、弁護士自治の汚点としかいえません。

     そもそも今回、白紙委任状という形が弁護士会の議決でとられていることを知って驚いている人もいました。もし、ミスであるならば、当然、これをやめるとか、インターネットを使った投票も考えられることになると思います。むしろ、それ自体は検討できる余地が十分あるだけに、弁護士会が公正さ担保に遅れているというイメージになることも避けられません。

     ただ、今回についていえば、さらに大きな問題があったといえます。私は、やはり今回の臨時総会は、執行部の決断で流会、全議案継続審議にすべきだった、この状態で、採決すべきではなかった、と思います。むしろ、この疑わしい状態では採決をしない、という公正さに対する厳格な姿勢を示すことが、前記疑惑を伴った「ミス」に対する、最も適切で、弁護士自治を堅持する姿勢にふさわしい、少なくとも効果が疑われる前記見舞金制度を会員を割ってまで、強行するよりも、はるかに意味のある対応だったのではないでしょうか。

     当日、出された継続の動議が多数の反対で否決された状況をみれば、当然、全国から集まった会員の反発は予想されたでしょう。しかし、執行部関係者も議場で言った「せっかくお集まりいただいたから」的で話で、進めていい話にはとても思えません。日弁連・弁護士会の信用をそれこそ根底から失墜する大問題として、緊急に最優先課題とする緊張感や危機感が、あの時の執行部と議場にいた多数の弁護士にはなかった。報道席から見ていて、そのことに強い違和感を覚えました。

     前記見舞金制度は、委任状出席を含めて、賛成9848票、反対2699票(弁護士会は賛成37、反対14、棄権1)で可決、成立しました。賛否の差は歴然ですが、賛成票は全会員の4分の1に過ぎません。それを考えればなおさらのこと、強制加入団体のリーダーならば、対立議案の議決にもっと慎重であってもいいと思えてきます。獲得票数で勝ることだけにとらわれず、会員の意見が割れている、しかも、それが自治の存続にかかわる見解であるならば、なぜ、もっと耳をかさないのでしょうか。

     30年以上日弁連を取材してきて、これほど後味の悪い総会に立ちあったことはありません。この後味の悪さこそが、これからの日弁連・弁護士会を暗示しているような気持ちになってきます。


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    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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