保釈保証書担保機能をめぐる弁明と現実

     全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が「保証機関」となり、裁判所が「被告人以外の者を差し出した保証書を以て保証金に代えること」を許した場合(刑事訴訟法94条3項)を前提に、保証書を発行する、いわゆる保釈保証書事業がスタートして、今年7月で丸4年になります。ただ、この間、全弁協からの情報発表は極めて限られており(「保釈支援の現実と懸念」)、この事業の現実について、残念ながら弁護士会内の認識が十分共有されてきたとはいえません。スタート時から比べると、会員の関心も同事業から遠ざかりつつあるようにみえます。

     そうしたなか、唯一といっていい一般向け広報の場となってきた全弁協ホームページ上のサービス案内コーナーに、昨年、この事業に関する、あるQ&A が掲載されました。結論から言うと、このQ&Aは同事業を推進する側として、よく考えられているものであると同時に、それだけ現在、同事業が置かれている状況も、よく映し出しているものにみえるのです。

     詳細はご覧頂ければと思いますが、設問は3つで、内容は大略以下のようなものです。

     ① 裁判所(官)から、全弁協の保釈保証書では被告人の出頭確保及び罪証隠滅行為の防止等のための担保機能が不十分なので、保釈保証書のほかに現金を納付するように言われたが、どう対応したらいいか。
     ② 全弁協の保釈保証書を発行した件数は、どれくらいか。そのうち、保釈取消しになったものは、どれくらいあるのか。
     ③ 全弁協発行の保釈保証書に関して、その被告人の出頭確保及び罪証隠滅行為の防止のための担保機能について、平成27(2015)年に、東京高等裁判所で二つの決定が出されたそうだが、どのように判断しているのか。また、この二つの決定から、どのようなことに注意したらよいか分かることはないか。

     ここで挙げられている二つの高裁決定とは、一つは、保釈保証金計500万円のうち300万円について、全弁協の保釈保証書で保証金に代えることを許可した原決定を、被告人の出頭確保及び罪証隠滅行為の防止のための担保機能を著しく損なう、として取り消した同年5月19日の決定で、もう一つは、保釈保証金計300万円のうち250万円について全弁協の保釈保証書で代えることを許可した原決定に対する検察官からの抗告について、「保証委託者の被る経済的損失は被告人にとっての心理的負担や経済的威嚇として十分である」として棄却した決定。要は、保釈保証書の担保機能について、正反対の方向の結論になった二つの司法判断です。

     前記3つの設問に対して、全弁協のアンサー部分の内容は、およそ以下のようになります。

     ① 全弁協の統計では、制度開始以降平成28(2016)年11月25日までの保釈保証書発行件数1625件(保釈保証金額が保釈保証書発行限度額300万円を超えるものは除く)のうち 1244件(約76.6)は、保釈保証書のみで保釈が許可され、現金納付はしておらず、保釈保証書のほかに現金納付を求められる方が少数。ただ、保釈の対象になる事件は、ごく軽微な事件から重大犯罪まで様々ですし、逃走等のおそれの程度も様々であり、一律に、保釈保証書以外に現金納付を求めるのは不当とはいえない。逃走や罪証隠滅のおそれが小さいこと、被告人と保証委託者との関係について、より詳細に主張して、できる限り保釈保証書だけで保釈許可が出るように交渉してはどうか。
     ② 全弁協の保釈保証書発行事業は、現在、旭川を除く全国の単位協同組合で申請の取次を行っており、平成28年11月25日までの間に、1716件(保釈保証金額が300万円を超えるものを含む)の保釈保証書の発行、うち没取は10件(うち覚せい剤事件6件)しかない(0.58%)。さらに、覚せい剤事件以外で没取になった4件のうち、2件は、単純に住所変更の許可を取っていなかったというもので、逃走・不出頭事案ではない。全弁協発行の保釈保証書の被告人の出頭確保及び罪証隠滅行為の防止のための担保機能が十分であることが裏付けられている。
     ③ 裁判所は二つの事案のうち前者のような覚せい剤事件で、その事案の内容や前科前歴の関係等から長期の実刑が予想されるような場合には、500万円のうち300万円を保釈保証書で代納するのは、被告人の出頭確保及び罪証隠滅行為の防止のための担保機能を著しく損なうと判断されることがあるとしつつも、後者のような窃盗等の一般の事件では、被告人にとっての心理的負担や経済的威嚇として十分であることを認めており、両者は矛盾していない。

     この設問の目的は、はっきりしています。それは全弁協が発行する保釈保証書の担保機能が十分に存在していることの弁明であり、この点に対する利用者の疑念の払拭です。そして、彼らがなぜ、いま、このQ&Aを作ったかといえば、この点こそ、彼らの事業にとっての、最大のネックであるから、ということが推察されるのです。「紙」による代納が、保釈制度の前記担保機能(抑止力)を維持し得るのか、それは現金納付と比べても、有効に作用するのか――。この点は、全弁協の制度の構想時から、専門家の間でも指摘、懸念され、現にこの点での米国での「失敗」が保釈金額上昇という、思わぬ副作用まで生んでいる実態が関係者からも報告されていました(「保釈保証書に冷やかな米国司法の現実」)。

     また、今回の設問からもうかがえることですが、法曹関係者に聞けば、依然、日本の裁判所、検察庁にも保証書の抑止力を問題視する見方は根強く存在している現実があります。

     全弁協は、そのネックを今回、自ら積極的に取り上げ、利用者と、裁判所・検察庁内にある担保機能への疑念に対して、没取の少なさと、事案による裁判所判断の違いという実績を提示することで、保証書事業そのものの可能性を強くアピールした、といえるのです。

     ただ、ここであえて気になる数値を提示しておかなければなりません。保釈支援では、2004年にスタートして既に定着している日本保釈支援協会による、保証金の現金立て替え事業の実績です。同協会の立て替え事業への昨年度申し込み件数は7912件、立て替え件数4756件で、同年度だけ比べても申し込み件数で全弁協保釈保証書事業の約8倍、立て替え件数は保証書発行件数の約7倍という規模です。同協会の申し込み件数と立て替え件数はスタート以来、ともに右肩上がりで、その勢いは全弁協が支援事業に参入後もとまらず、申し込み・立て替え件数ともに過去7年間で倍増しています。

     気になるのは、没取件数です。取材したところ、同協会の場合、昨年度4756件の立て替えのうち、没取はわずか8件、没取率は0.17%。事業スタートからこれまで過去13年間の全実績でみても2万9062件中86件、0.30%と、全弁協の前記0.58%とは、歴然たる差があるということです。これは、今後の保釈保証書事業の展開のなかで埋められていく差なのか、それともこれこそが「紙」による支援の逆転することがない限界なのか、という点は、当然問われてくるところだと思います。

     この両制度について取材した、ある弁護士は「刑事弁護士は単に利用できるものなら、何でも利用するという発想しかないので、全体的に制度的関心は低い」と話していました。弁護士の関心は主に制度の使い勝手であり、全弁協保釈保証書事業についても、利用できるならば利用すればいい、選択肢はあっていい、というところで思考停止し、裁判所や検察庁ほど没取率やそれが示す保釈の抑止力といった問題に今一つ目がいかない、という現実もあるようにみえます。

     日が当たっていない制度であればなおさらのこと、全弁協が弁明する可能性の先に、保釈制度はどのようになっていくのか、冷静な視線も求められているように思えます。


    全弁協の保釈保証書発行事業を利用した感想、ご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/5882

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    テーマ : 刑事司法
    ジャンル : 政治・経済





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    No title

    具体的には、いったん強制加入団体の弁護士会を解散・清算し、会員に残余財産を分配します。その後に、有志のみが出資し合って任意団体を作る、という手順です。

    他人の金で任意団体を作れるなら、しかも人数が減るならば、任意団体の一人あたり純資産額が増えて、盗人に追い銭です。したがって、解散清算は必須。

    法律改正が必要なんだけど、この問題に熱心な国会議員っているかなぁ。誰か知らない?

    No title

    こうしてみると日弁連というのは会員を傷つけるために存在しているようにしか思えないね。

    早く任意団体になってもらわないと

    何が問題なの?

    別に,弁護側にとって使い勝手の悪い制度であれば,次第に利用されなくなるだけの話。全弁協の保釈支援事業が莫大な赤字を垂れ流し,それが会費増額の原因になっているというのなら問題にする弁護士もいるでしょうが,別にそういうわけでもなさそうだし。
    米国と異なり,保釈保証書自体があまり利用されないのであれば,それによって日本の保釈制度が大きく変わることもないでしょう。
    一体何が問題だと言いたいのかよく分かりません。

    No title

    そんなことより黒猫先生にインタビューしたほうがずっと実のある内容になるのに……。

    No title

    よーし、ぼくちゃんバウンティーハンターになっちゃうぞ。
    プロフィール

    河野真樹

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
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