逆効果政策をやめられない「改革」

     法曹志望者減という現象を中心にとらえれば、この「改革」はそれに対して、やぶへびともいうべき、明らかに逆効果という政策をとってきた、とみることができます。基本的なことをいえば、繰り返し述べてきたように、志望者減の原因は、激増政策によって激変した弁護士の経済環境の不安定化、不透明化によって、経済的な意味での仕事の魅力が減退したこと、それに加えて、法科大学院修了の司法試験受験要件化による、その時間的経済的負担が、「価値」として見合わない、いわば妙味がないプロセスと判断されたこと、にあるといえます。

     この構造が解決しない限り、特に前者が解消しない限り、根本的には志願者減に歯止めはかからない。それを考えれば、弁護士過剰状態を生み続ける増員基調の政策は、まさに逆行しています。それを維持したまま、経済環境の改善を、開拓や進出といった弁護士の努力に期待する見方はあっても、多くの弁護士自身が確固たる展望もなく、少なくともその将来性は不透明。まして職業的魅力をいくら発信させたとしても、それでどうにかなる状況でないことは火をみるより明らかです。

     さらに、加えて「改革」は司法修習生の「給費制」も廃止してしまいました。これも志望者獲得を考えるならば、負担を減らすどころか増やしているのですから、逆行以外の何ものでもありません。11月24日付けの信濃毎日新聞が、この現実を直視する社説を掲載しました。タイトルは、まさに現実そのまま「法曹への道 経済負担で志を摘むな」。貸与制への移行は、志のある若者を経済負担で断念させないということに背を向けた「逆行する対応」としたうえで、有為な人材が法曹にならないツケは国民に回ると警告。「将来の司法サービスの低下につながる」ととらえるなど、問題の本質をとらえる見方を掲載しています。

     さらに、この社説は、この「改革」に関する新聞論調としては画期的ともいえる、次のようなことを述べています。

     「実際は法曹需要が見込み通り伸びず、政府は13年に『年間3千人』の計画を撤回した。少なくともこの時点で給費制に戻すべきだったのではないか。貸与制は既成事実化して今も続く」

     逆効果政策が、「改革」の結果を乗り越えて続いている現実です。志望者減という現象から改めてみると、制度創設時2003年当時、5万9393人いた適性試験志願者(日弁連法務研究財団、大学入試センター各合計)は、2010年には1万6470人と三分の一以下に減少。実施主体が法務研究財団に一本化した2011年7829人からも、2015年には3928人と半減しているのです。5年前の2011年には、既に激減傾向は見通せたともいえます。この異常ともいえる「法曹離れ」傾向のなかで、まさに経済負担が志を摘む、逆効果政策がまるで顧みられることがないように、ずっと続けられているのです。

     法曹界外の人間と、こうした「改革」の現実について話していると、よく尋ねられます。

     「法科大学院制度を維持しようとしている人たちが、そんなブーメランのように自分たちにマイナスとして返ってくる政策を、なぜ支持し、続けているのか」

     「給費制」の負担が加重されれば、法曹志望者は減ることはあっても増えることはなく、結局、法科大学院には人はこなくなるかもしれないではないか、と。その同じことは、弁護士の経済状況についてもいえます。この状態で増員は続けよ、合格率を上げよ、取りあえず資格を与えよ、では、ますます将来を見通せない志望者たちは、この道を選択しないのではないか――。自分たちにブーメランのように返ってくる逆効果政策を、彼らは本当に認識していないのか、という疑問を持つのも当然です。

     ではそれは、なぜなのか。理由は二つしかないと思います。当初においては、志望者の目線を決定的に欠いていたこと。そして、逆行策が続けられているのは、前記事実を認めたくないこと。もっとも、そうだとすれば、そもそも「改革」の目的が、法曹界に有為な人材を確保することでも、その結果として「市民のため」になることでもないということが、はっきりしてしまうのですが。


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    弁護士業務拡大路線の正体

     弁護士の業務拡大路線とは、一体何のために続けられるのか、という素朴な疑問を持ちます。誤用のような「法の支配」という言葉を振りかざし、社会の隅々や、権力機構の内部にまで弁護士が進出することを是とする「改革」路線に後押しされ(「『法の支配』というイメージ」)、かつ、「二割司法」という感覚的数値がイメージさせた、膨大な潜在需要を前提に、弁護士は業務拡大の実現を夢見て増員路線を受け入れました。

     その時に多くの弁護士が思い描いた業務拡大と、現在、弁護士に突き付けられているものとは大きく絵が違うといわなければなりません。いうまでもなく、前記描き方のなかでは、拡大は社会の要請であり、あくまで弁護士はそれに応えなければならなくなったというものであり、大量の供給に対して、需要を必死に掘り起こさなければ、それを支え切れないなどということは想定されていなかったからです。

     過剰状態のなかでも弁護士としては、生きていかなければならず、そのための努力することも、それを所属団体が鼓舞することも、彼らにとっては当然かもしれません。しかし、私たち利用者からみれば、増やしてしまったものを支えるためにやることと、社会的要請のもとにやることとは意味が違います。また、前記事情に社会的な要請をどこまで被せられるのか、ということは、きちっとみなければなりません。いまでもなく、それは、「市民のため」と銘打った「改革」の評価にかかわってくるはずだからです。

     拡大路線を肯定する弁護士のなかには、路線の前段部分の「進出」の意義を強調される方がいます。しかし、それが大量供給を必要とした根拠になるのか、という疑問はどうしても残る。それは数の点だけでなく、それがすべて弁護士でなければならなかったのか、という問題もあります。自治体職員や議員秘書、最近では話題となった学校給食の回収まで、弁護士全体の経済環境を激変させ、ひいては志望者を遠ざける結果を招来させてまで向き合わなければならなかった需要なのでしょうか。

     「活用」という言葉があてはめられると、「結構ではないか」という話になります。しかし、ここには後付け感、もっといってしまえば「隠蔽感」といえるものを覚えてしまいます。何度も書いているように、市民社会のなかには、「二割司法」が連想させたような、大量の泣き寝入りや不正解決を生み出している、弁護士の「進出」を待っている需要、しかも大量の供給を支える有償需要はなかった。そして、無償の需要があったとしても、それに弁護士がどうこたえられるのか、ということについて、詳密な検討がされていたわけでもなかった――。

     不思議な感覚に陥りますが、今でも弁護士業務拡大路線を掲げ、少なくともそれを社会的な要請とつなげて、「べき論」でいう方々は、常に「社会の隅々」で拍手をもって弁護士が迎えられると信じて疑わないようにみえます。弁護士はもっと「活用」できる、社会はそれを知らず、それに大衆が目覚めれば、必ずやわれわれは必要とされ、当然、われわれを支えてくれるおカネを有り難く頂戴できるはずなのだ、というような(「日弁連『フレンドリー』広告の見え方」)。

     しかし、何度も書いていますが、弁護士が、まして生き残りをかけて行う需要創出に私たちは手放しで乗っかることはできないし、それは危険といわなければなりません。事件創出などという言葉を、弁護士=正義を前提に、割と抵抗なく使う風潮が弁護士会のなかにありますが、一般の利用者には事件創出、あるいは掘り起こしと、焚きつけの区別は簡単につかないのです。

     逆に無償需要に対する対応への期待感は、法テラスを含めて、失望を生むことになります。弁護士業務が成り立つ採算性というものを、社会に周知させず、また、想起もさせない、「改革」の現実です。少なくとも「改革」は、非採算部門に弁護士が手を出せる経済的自立の基盤を一方で破壊している。そのことの意味もまた、周知されているとはいえないのです。

     そもそも拡大路線だけが、弁護士がとるべき選択肢だったのか、という見方もあります。弁護士が常に登場するのではなく、最終的に登場するプロ中のプロ。あるいは隣接士業や一定の法律教育を受けてきた人間たちが、手に負えないものを引き受ける存在でよかったのではないか、という捉え方です。何も弁護士がすべてをやるのではなく、むしろ弁護士外の業務的な対応力やリテラシーを向上させる方に力を入れる。例えるならば、極端な話、弁護士は町医者になるのではなく、町医者が対応できないときに回ってくる大学病院のような存在。今となってみれば、弁護士を激増させるよりも、少数の、しかし頼りになる、先鋭部隊として弁護士が存在した方がよかったのではないか、という思いが過るのです。

     弁護士の拡大路線は、「改革」にまだ決着がついていないという建て前でありながら、実は「失敗」のうえに、続けられているといえます。しかし、あくまでそれを認めない路線は、「市民のための改革」から離れているだけでなく、弁護士自身も追い込んでいるように見えます。


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    弁護士自由競争の先に見えているもの

     弁護士という仕事に自由競争はなじまない、ということを、公言する弁護士は、かつてこの世界に沢山いました。今でも本音では、そう考えている弁護士も少なからずいるとは思いますが、いまや堂々とそう発言するのを、あまり耳にしなくなりました。「改革」は、需要が生まれることを前提として、弁護士を増やすことの必要性を掲げましたが、その一方で市場原理に委ねるとしたその方向には、弁護士の競争を肯定する、逆に言うと、これまで数の制限によって無競争状態だったことを「悪」とみる発想が、当然のように被せられました。

     それまでの弁護士が無競争だったという前提には、今でも弁護士間にも異論がありますが、競争を否定することは、黙っていても仕事が転がり込んでくるという、あたかも怠慢を許す恵まれ過ぎの環境を求めている、ととられるという、ある種の「自覚」が、冒頭の言葉を公言しない弁護士の意識傾向を生んだ、ということは否定できないように思います。その点で、弁護士は他の商業活動と同様であり、特別扱いされない、ということを、多くの弁護士が形として受け入れた格好になっているようにもとれます。

     しかし、これまでも書いてきたことですが、私たち利用者がこの発想を肯定できるかどうかは、いうまでなく、その発想が思惑通り、あるいは「改革」が私たちに期待させた通りの結果を出すのか、という1点にかかっています。つまりは、競争によって、弁護士ではなく、利用者がサービスの良質化や低額化といったメリットを得られるという「価値」です。少なくとも弁護士のかつての環境を「悪」とみるには、あくまで私たちが本来得られるべき利益の獲得が阻害されてきたという前提に立つ必要があるはずだからです。

     結論からいえば、「改革」路線は、弁護士の需要が生まれるという予想を外したのみならず、競争によって利がもたらされるという結果も出せてない、といわなければなりません。そして、今、問われるべきなのは、果たして弁護士の自由競争とは、利用者にとって何を意味するのかについて、「改革」はフェアに伝えたのか、という点にあるように思えるのです。

     そもそも多くの案件で薄利多売化が困難な弁護士業務実態や、情報の非対称性が存在し、利用者にとってフェアな選択が担保しにくい彼らとの関係性を考えただけでも、容易に競争のメリットをわれわれが享受できるというシナリオは描きにくいものでした(「弁護士『薄利多売』化の無理と危険」)。「改革」推進派も大マスコミも、その現実をフェアに伝えたわけではない。ただ、それもさることながら、彼らはその先に、何が生まれるのか、利用者にとって負の部分、リスクについても、意図的に伝えていないのです。

     その最大の欠落点は、弁護士が採算性を追求することになる現実です。それは、彼らが当然のごとく(少なくとも「改革」が描いたように、大幅に需要が拡大する未来が来ない限り)、彼らは非採算部門を切り捨て、より利益を追求するということにほかなりません。以前も書いたように、大本の司法審「改革」路線派は、それを積極的に肯定したわけではありません。むしろ一方で、採算性度外視が前提となる、公益的領域を視野にいれた「奉仕者」になることを求めていたのです(「弁護士の採算性と公益性をめぐる無理と矛盾」)。

    このはっきりとした矛盾した方向を、「改革」路線を受け入れた当時の弁護士たちは、どう理解していたのか――。それを今、考えてみれば、ひとえにそうした矛盾が顕在化しないで済む、大量の需要発生の未来を司法審の言う通り、信じた、あるいはなんとかなるだろ、という非常な楽観論が支配した、としか説明できないように思います。

     競争する、そのために彼らが営業するということの、利用者にとっての意味は、彼らが採算性の視点で、より「選択」するということでもあります。

     「営業するということは、今までえらそうだった弁護士が他の人に頭を下げて仕事をもらうことだから弁護士の腰が低くなり、良い傾向だと思うかもしれないが、そうとも言い切れない面がある」
     「なぜなら、アメリカの弁護士を見ていて思うのだが、営業を重視するあまり、金になる良いお客さんにだけ大切に扱い、金にならないような仕事を持ってくる個人や小規模の企業に対しては、相手に嫌な思いをさせないようにしながら上手に断ってしまうことになるのではと思う。ビジネスになるクライアントと仕事を選別するのである」(「アメリカ法曹事情」)

     日本のかつての弁護士が口にした、自由競争にくっついた「営業」「ビジネス」といった事柄を「なじまない」という意識には、そこを表看板にした場合に危い、この仕事の実態を見抜いた「知恵」があったのではないか、ということを以前書きました。そうなった場合、彼らは何をできるのか、そのしわ寄せはどこにいくのか、彼はよく分かっていた、というべきです(「『使いこなせない』人間にとっての弁護士『改革』」)。

     弁護士は、刑事弁護、弁護士会活動を含めて、非採算部門から今後、続々と撤退するだろうとする見方が会内から聞こえてきます。「福岡の家電弁護士のブログ」は最近のエントリーの中で、①このプラクティス分野での経験を積みたいという気持ちがあってかつ経済的に余裕のある(イソ弁として一定の生活が保証されている者も含む)弁護士、か、②他のプラクティス分野での収入獲得の見通しがないため非採算かそれに近いレベルのフィーであってもこのプラクティス分野に甘んじるしかない弁護士以外、この分野から撤退すると指摘。さらに弁護士激増論は、②の弁護士を増やす必要があるから主張されている、との見方も示しています(「弁護士が経営上注意すべき弁護士の『自由競争』にまつわる2つの問題」http://www.mk-law.jp/blog/319/)。

     低額化という意味で、社会の期待感の受け皿にはなっているように見える法テラスが、公金導入をバックに価格破壊を生み、逆に弁護士の競争を阻害していることも指摘していますが、同時にそれにかかわる弁護士像をどういう前提で想定しているのか、という問題も浮き彫りにしています。つまり、採算性という現実を考えたときに、この制度は期待感の「受け皿」として成り立っているのか、成り立っていくのか、ということを根本的に考えさせられるのです。

     弁護士の自由競争をめぐる「改革」の発想は、既に成り立っておらず、今後、ブログ氏が予想するように、さらに大きな破たんが待っているかもしれない――。そのことが利用者である私たちに知らされていない、というところから、まず、捉え直していく必要がありそうです。


    弁護士の競争による「淘汰」という考え方についてご意見をお寄せ下さい。司法ウオッチ「司法ご意見板」http://shihouwatch.com/archives/4800

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    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
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    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

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