「提訴」懲戒審査対象決定の波紋

     アダルトビデオ(AV)への出演を拒否した女性が所属プロダクションから、契約違反として2460万円の損害賠償を求められた訴訟(2015年東京地裁で請求棄却。確定)で、プロダクション側代理人を務めた弁護士について、日弁連が提訴に問題があったとして、「懲戒審査相当」の決定を出したことが、弁護士の間でも話題になっています。

     AV出演の強制、高額な請求という点からみて、不当な訴訟に加担した弁護士対する対応として、多くの人は日弁連決定に違和感を覚えないと思います。また、弁護士のなかでも、この訴訟の提訴時には、「呆れた」というニュアンスに近い批判の声を沢山聞きました。多くの弁護士の感覚としても、この提訴はその常識からズレていたととれました。

     ところが、これが日弁連の決定によって「懲戒審査相当」と位置付けられるとなると、今、別の違和感が弁護士のなかに広がっているようです。それは、この決定が訴訟の中身に踏み込んで、提訴自体を審査対象にしているところです。今回の決定で、今後弁護士の懲戒請求が、スラップといわれる巨額な請求による恫喝的な訴訟への対抗手段になるという捉え方もされていますが、逆にこのことが提訴そのものの揚げ足をとる形に濫用される危険性、また、それを恐れた弁護活動の委縮が弁護士に広がる可能性を危惧するものです。

     今回決定の是非は、提訴目的にどこまで着目するかが、見解を分けるところかもしれません。弁護士の行動規範を定めた弁護士職務基本規程は31条で弁護士は、「依頼の目的又は事件処理の方法が明らかに不当な事件は受任してはならない」としています。これをストレートにあてはめる人の話はここで決着します。

     ただ、その一方で弁護士として依頼者の意向を背負って、不当かどうかも含めて、裁判所に判断を求めること自体が問題にされるのはどうなのかという受けとめ方もあるのです。別の言い方をすれば、このケースとは切り離して、他の弁護活動に置き換えたとき、果たして問題にされるべきか、という感覚を持った弁護士がいたということです。むしろ、正当な活動として裁判所に持ち込む弁護士が、この手段によって反撃にあうことを重くみた意見ともいえます。そして、その先には国民の「裁判を受ける権利」や「法の支配」そのものへの影響も視野に入ってきます。

     今回の案件で、対象となった弁護士が所属する第二東京弁護士会の綱紀委員会が提訴は正当として、審査に付さない決定をして、異議申し立てで日弁連の綱紀委員会が決定を出したという経緯にも、この問題が弁護士にとって、微妙な解釈にかかわっていることをうかがわせます。一部報道によれば、日弁連の決定でも提訴が懲戒理由にされるのは「極めて例外的に場合」と限定したうえで、今回の提訴が、AV出演の強制とみなされる恐れや威圧効果に着目した結論とされています。日弁連も、懸念論のいうリスクも含め、すべて分かったうえで、あえて今回の結論を導いている、ともとれます。

     しかし、この決定で日弁連が、弁護士自治のうえで、現実問題として、何を取り、何を切り捨てたのかということは、今後も問われることになるかもしれません。


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    日弁連イメージ広告戦略への距離感

     日弁連が新たなイメージ広告となる、広報用CMを制作しました。昨年、ポスターで起用した女優の武井咲さんを登場させた15秒と30秒の2バージョンです。



      「人生何があるか分かりません。
      そんな時、あなたを助けてくれる人はいますか。
      私に笑顔をくれたのは弁護士さんでした」

     どこか東京の丸の内仲通りのようなオフィス街を悠々と歩く武井さんの前に、突然、現れる大きな崖。そこに落ちそうになる武井さんが、大きなひまわりの茎につかまって救われてニッコリ。上記ナレーションを被せた映像としては、ある意味、とてもシンプルです。

     弁護士が市民に身近な存在であることをアピールする狙いは、前回2013年に作成されたCM(「日弁連『フレンドリー』広告の見え方」)と同じですが、印象は大分違います。全国の弁護士を次々に登場させて、「私たちあなたの応援団」とリレーで歌わせた前作には、弁護士界内で言われ続けてきた「敷居が高い」イメージ払しょくのため会員にひと肌脱いでもらった感があります。それに対して、「頼りになる存在」の方を誇張した本作は、ナレーションがいう、振って湧いたトラブルの時に助けてくれるということのイメージ映像で、武井さんの注目度に寄りかかっている感はどうしてもしてしまいます。

     弁護士役の「大きなひまわり」も、ひまわりが弁護士を象徴していることを知らない人にどういう形で伝わるのか、ということもありますが、意地悪な見方をすれば、大胆な映像を使っている割に武井さんの印象ばかりが先に立って、肝心の弁護士の存在を印象付ける部分が弱い感じはします。

     しかし、以前も書きましたが、あくまでイメージ広告は、消費者のなかによいブランドイメージを形成するためのもので、直ちに成果が出せるものではありません。前回も今回も、最終的に「ひまわりお悩み相談」への誘導も図っていますが、そちらへの反響だけで価値をみるのは、この広告の目的の本筋ではありません。

     長く繰り返し流されなければ、効果は期待できない広告ですから、この種の広告は実質的な、あるいは実証的な費用対効果でみたならば出せないという見方まであります。仮にクライアントから効果についてのクレームがあっても、必ず広告代理店からは反復性や、しまいには直接いえるかはともかく、商品そのものの限界という言い訳が用意される。クライアントの発想で、向き不向きがはっきりしてしまう広告ともいえます。

     今回の日弁連のイメージ広告についても、前記「お悩み相談」への誘導を含め、「会費を使うだけの効果があるのか」といった不満の声が、はやくも会内から聞こえてきますが、そもそもその種の不満が出る主体が出す(出せる)広告ではない、といわなければなりません。

     ところで、一旦手段としての広告から目を離して考えると、弁護士は、今、どういうイメージを社会に形成すべきなのでしょうか。日弁連の広告戦略では、一貫して形成すべきイメージは「身近で頼りがいのある相談相手」です。それは前回にしても今回にしても、市民のなかにある種の固定観念があることや、常に本当の弁護士を知らない層の存在を前提として、そこをターゲットにアピールされてきたといえます。そこには需要開拓という発想も結び付けやすい。

     しかし、今、弁護士が直面しているのは、そこだけでしょうか。例えば、増員政策による経済的な激変に伴う弁護士のイメージ変化――依頼者のカネに手をつける型の横領事案の報道で必ず背景として伝えられる、その変化が生み出した正義に反するイメージ、ビジネス化がもたらした拝金的なイメージ、さらに逆にサービス業化のなかで足かせになる、無償性や採算性を追求することに対する誤ったイメージ。

     弁護士会は業界団体として、もっと弁護士が個人事業主であることをアピールしてほしい、という声まで会内にはあります。「普通の」個人事業主でありなから、普通ではない使命や期待を背負う仕事であること。弁護士の自覚として受けとめるべきところと、それでも「普通の」を理解してもらわなければできないことがある、というところに、イメージの問題を含めて弁護士の難しい現実があります。

     では、それを広告という手段でなんとかできるのか、といわれれば、それはそれで簡単にはいかないとは思います。その意味では、効果はともかく、日弁連は広報活動として、少しでもできることをやっている、あるいはあえていえば、何もやらないわけにもいかないからやっている、という見方もできるかもしれません。

     ただ、前記弁護士が抱えている現実を考えると、会費から高い費用を使い、女優まで投入する日弁連の熱意に反し、「身近」ばかりを打ち出す、そのイメージ戦略は、その効果や狙い以前に、会員の気持ちからは離れつつあるようにみえます。


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    「前向き」論への視点

     あけましておめでとうございます。

     志望されない業界になっているという、お世辞にも明るいとはいえない現実を抱えている法曹界。そんななかで、「前向き」論と括れるような論調を繰り出されている方々も目立ってきました。既存法曹が業界の未来と自ら生存をかけて、「前向き」であること自体を頭から否定する人はいないと思います。ただ、それがこの状態を生んでいる「改革」への肯定的評価とつなげようとする試みを含んでいるとなると、本来話は別といわなければなりません。

     「改革」の動かし難い負の影響の前に、「改革」を全否定するのはおかしい、として、プラス面を強調する論調が業界内に登場しています。増員政策にしてもある種の需要がみたされた、裁判員制度によって裁判所が国民の目線を意識するようになった、民事裁判が短縮化された――。「改革」以前には、どうにも動かなかったものが、制度改革によって着実に動いたんだと。昨年、「希望」という言葉を書名に冠した裁判官・元裁判官らによる書籍が出版されましたが、まさに、「改革」路線の先にある未来の希望を、そのプラス面に見出そうとする試みです。

     しかし、こうしたタイプの「前向き」論に出会う度に、二つのことが気になります。一つは、それがどういう意味を持つのかということへの疑問です。前記したプラス面の捉え方自体、評価が分かれるところですが、仮にそれが正しい主張であったとしても、それこそ、「司法改革」といわれるもの全体に点数をつけるような試みにしかいかされない。要は、反対派が主張するようなマイナス面について、何の助け舟にもならないということです。

     そもそも「改革」反対派、慎重派が、プラス面を含めて全否定しているとは限らず、プラス面があったとしても、マイナス面を無視できないといっているのであれば、対立軸はずれていることになります。むしろ、「前向き」論が反対派、慎重派への対抗論調として真正面からぶつけられ、正当性が主張されるのであれば、マイナス面の犠牲をプラスの「価値」によって、許容させようとする方向にだってとれてしまいます。

     ただ、現実的には「価値」の評価、つまりこれだけのプラスを「改革」生んでいるんだから、ある種の犠牲が伴うのは致し方ない、という直球勝負ではなく、単にそれは「改革」の現実への目くらましにしかなっていない、ように見えます。反対派・慎重派からすれば、どこまでいっても光の部分の「希望」を語るだけでは済まない、という言葉が用意されるはずなのです。

     そして、もう一つは、その「前向き」論が見出そうとしている「希望」とは一体、誰にとっての希望なのか、ということです。生き残ろうとしている弁護士にとっての希望なのか、裁判官にとってのそれなのか、これから法曹になろうとするものにとってのそれか、それとも私たち利用者にとってのものなのか――。「改革」の現実的な問題は、むしろそれが共通のものとして生み出せていない、想定通りには生み出せていないというところにあるのではないでしょうか。

     弁護士が増やしても経済的には破綻せず、市民にとってよりよい形の司法救済が実現し、そして、それを支える優秀な人材がこの世界に集まる。利害の対立ということだけでなく、それぞれの無理を直視しないところに、むしろ「改革」の想定の甘さがあったのではないでしょうか。弁護士会主導層などから昨今聞こえてくる「魅力」発信を同業者に求める論調も、現状を甘く見た、一方向からの「前向き」論である印象を持ちます。

     最近のツイッターでこんなことがつぶやかれていました。

      「司法制度改革について『弁護士が儲からなくなったら弁護士志望者が減る』という批判をする弁護士が居て、それに対して『自分が儲からなくなるのが嫌なんだろ』って反論は、むしろ相手の論を補強してるよね。 目の前の弁護士は『元・弁護士志望者』やで」(泥濘大魔王サイケ)

      「改革」をめぐって、甘えや努力不足一辺倒で弁護士をたたいてみてももはやこの現実からは抜け出せない、むしろそれが盲目的であるところに「改革」論調の行き詰まりが読み取れます。もはや自らにとってもマイナスになることまでが強弁されていることこそ、「改革」の行き詰まりの根深さ、深刻さを物語っているというべきなのです(「弁護士のため息」)。

     やはり私たちは、さまざまな立場で繰り出される「前向き」論、楽観論に惑わされず、この「改革」が当初の想定に反し陥っている現実に向き合う必要があります。


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    プロフィール

    Author:河野真樹
    司法ジャーナリスト。法律家向け専門紙「週刊法律新聞」の記者・編集長として約30年間活動。コラム「飛耳長目」執筆。2010年7月末で独立。司法の真の姿を伝えることを目指すとともに、司法に関する開かれた発言の場を提供する、投稿・言論サイト「司法ウオッチ」主宰。http://www.shihouwatch.com/
    妻・一女一男とともに神奈川県鎌倉市在住。

    旧ブログタイトル「元『法律新聞』編集長の弁護士観察日記」


    河野真樹
    またまたお陰さまで第3弾!「司法改革の失敗と弁護士~弁護士観察日記Part3」
    河野真樹
    お陰さまで第2弾!「破綻する法科大学院と弁護士~弁護士観察日記Part2」
    河野真樹
    「大増員時代の弁護士~弁護士観察日記Part1」

    お買い求めは全国書店もしくは共栄書房へ。

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